2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00540
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
清水 誠 北海道大学, 文学研究院, 教授 (40162713)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ゲルマン語 / ドイツ語 / 言語類型論 / 歴史言語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究2年目にあたって図書 (共編)1点、論文 (単著) 3点を刊行した。いずれもドイツ語の形態統語論的特徴から出発し、ゲルマン諸語との比較を扱っている。 論文「ドイツ語から見たゲルマン語 (2)-属格と所有表現-」では、屈折範疇としての古ゲルマン諸語の属格がアイスランド語とドイツ語にほぼ限定され、所有格が前接語に変わった事実を現代ゲルマン諸語の所有表現との関連から検証し、言語の発達サイクルとリサイクルの概念のもとに総括した。論文「ドイツ語から見たゲルマン語 (3)-名詞の性の発達と複数形の形成-」では、ゲルマン祖語の名詞の「男性・女性・中性」の3性が「両性・中性」、「男性・非男性」、「可算性・不可算性」に至る過程を詳細に検討し、ドイツ語の複雑な複数形がゲルマン祖語の語幹形成要素からの再分析である事実をもとに、屈折と派生という異なる範疇の連続性について論じた。論文「ドイツ語から見たゲルマン語 (4)-冠詞と指示詞-」では、古ゲルマン諸語の指示代名詞・数詞「1」から発達した定・不定冠詞の基本形と弱形の関係を現代ゲルマン諸語のデータに照らして、歴史類型論的に位置づけた。 著書:Muroi, Y. (Hrsg.): Einheit in der Vielfalt? Germanistik zwischen Divergenz und Konvergenz. Asiatische Germanistentagung 2019 in Sapporo. Muenchen: iudicium. は、国際アジアゲルマニスト学会2019年札幌大会の第7分科会 (Konvergenz und Divergenz: Sprache in der Geschichte und in der Gegenwart) の成果を共編者としてドイツの出版社からオンライン出版で発信したものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、新型ウイルス感染症の蔓延に伴って、予定していた出張がすべて取りやめになったことが悔やまれる。論文「ドイツ語から見たゲルマン語 (2)-属格と所有表現-」は、当初、日本独文学会春期研究発表会で発表を予定していた内容に基づいている。この意味では「やや遅れている」という評価が適切かもしれない。 しかし、論文としては、これ以外に「ドイツ語から見たゲルマン語 (3)-名詞の性の発達と複数形の形成-」と「ドイツ語から見たゲルマン語 (4)-冠詞と指示詞-」をまとめることができた。昨年度、発表した「ドイツ語から見たゲルマン語ー名詞の性、格の階層と文法関係-」と合わせて、4本の論文が計上できたことになり、合計190頁に及んでいる。本研究の成果は単著の書籍として刊行することを目指しており、残り3年間を入れれば、十分に達成可能な段階に達していると考えられる。 また、著書:Muroi, Y. (Hrsg.): Einheit in der Vielfalt? Germanistik zwischen Divergenz und Konvergenz. Asiatische Germanistentagung 2019 in Sapporo. Muenchen: iudicium. の刊行によって、国際アジアゲルマニスト学会2019年札幌大会の第7分科会 (Konvergenz und Divergenz: Sprache in der Geschichte und in der Gegenwart) を担当した実績を通じて、本研究の意義を国際的に発信することができた。日本独文学会の主導で科学研究費補助金の援助をもとに、ドイツの出版社からオンライン刊行されたこの成果は、合計1,000頁に及ぶもので、無料でアクセス可能となっている。 以上の成果から「おおむね順調に進んでいる」と判断される。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究では、残り3年間を通じて、本研究の成果を単著の書籍として刊行することを目指している。そこで、来年度は、「ドイツ語から見たゲルマン語」と題した上記の合計4編の論文に加えて、できる限り多くの継続編を発表していきたいと考えている。すでに、「ドイツ語から見たゲルマン語 (5)-人称代名詞-」(仮題) の原稿を4月中に完成させる予定である。また、夏期には「ドイツ語から見たゲルマン語 (6)-3人称代名詞の系列と再帰代名詞-」(仮題) を執筆完了し、さらに、冬期には「ドイツ語から見たゲルマン語 (7)-2人称の表現-」(仮題) の執筆を見込んでいる。これによって、おそらく刊行予定の著書の約70%が完了する見込みである。 その結果、全体として見れば、名詞類 (nominal) を構成する名詞、形容詞、代名詞という主要3品詞に関する現象を扱うことができたことになる。残りの30%は、動詞と文の構造をめぐる論考に当てたいと考えている、動詞の部分は、申請者の博士論文を改訂した『西フリジア語文法-現代北海ゲルマン語の体系的構造記述-』(2006 北海道大学出版会、日本学術振興会科学研究費補助金・研究成果公開促進費による助成出版) をまとめた際の経験から、かなりの分量になることが予想される。残り3年間の期間内に目標を達成できるように、全力を傾注したい。 研究発表については、諸学会は軒並み、オンライン開催を見込んでいるようで、現時点で旅費を有効活用できる見込みは薄い。ゲルマン諸語の文献収集と研究機関への訪問のために、海外旅費を活用したいと切望しているが、来年度中に実現できる可能性は高くないことが予想される。海外からの研究者と接する機会も、強く制限を受けることになるだろう。オンラインでの人的交流や資料の検索と調達の可能性を探りながら、できるだけ上記の目標に近づきたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
昨年度は、新型コロナウィルス感染症の世界的蔓延のために、すべての国内学会および国際学会が予定していた対面開催を中止せざるを得ない事態に追い込まれた。その結果として、旅費に使用を予定していた経費が大幅に余ることにつながり、他の目的に利用した金額を差し引いても、上記の繰越金が発生することになってしまった。これは、世界中のだれにも予想できなかった異常事態であり、きわめて例外的な不可避の出来事であったことは言うまでもない。 来年度は、少なくとも春・夏期開催予定の諸学会は、国内および海外を含めて、すべて対面開催ができないことになっているようである。一方、秋期以降の開催については、ホームページ等では対面開催を予告している学会も少なからず見られるが、実質的には未定と言わざるを得ない状況に置かれている。そのため、当初、使用を予定していた旅費が再度、活用できるか否か、きわめて不透明な状況に置かれている。少なくとも現時点での判断としては、状況を注視しながら、当該の金額を有効に活用する何らかの方策を見出したいと考えている。
|