2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00542
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
西山 國雄 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (70302320)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 複合語 / 述語 / 目的語 / 付加詞 / 編入 / 動詞連続構文 / 統語論 / 音韻論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では日本語における、述語を含む複合語の構造と派生について、名詞、形容詞、動詞の3つの統語範疇にまたがった総合的研究を行う。名詞は「立ち読み/本読み」のような動詞由来複合語、形容詞は「欲深い」などの主語が編入した複合語、動詞は「押し倒す」のような複合語が対象となる。述語が統語構造の中でどのような位置を占め、項をどう認可するかという一般統語理論と、語根がどのように範疇化されるかという形態理論を用いて、3つの範疇の複合語の構造と派生の共通点と相違点を明らかにして、一般言語理論への貢献を目指す。 2020年度は著書を刊行し、研究の1つの方向を示すことができた。概説書であるが、発表した論文の内容や、現在考えている今後の課題を入れた。動詞由来複合語では目的語と付加詞の生成の位置の差が、2つの種類の動詞由来複合語における連濁とアクセントの差を生むという仮説を提示した。 複合形容詞では、「ない」を含むイディオムの分析を近日刊行予定である。ここでは「危なげない」のように「ない」が独立したものと、「手に負えない」のように動詞とともに「ない」が使われるものを分析した。ともに語彙化という通時的概念を用いて、統一的に分析した。また「欲深い」のような複合形容詞については、著書で簡単な見解を示した。これに関して、3月に参加したワークショップで話題になり、特に和語と漢語の差について、語の構造の違いを生むか、音韻的な差異に限定されるか、という課題が認識された。 形容詞については、3月のワークショップで「高いです」のような丁寧形の分析も発表した。これと「食べました」のような動詞の丁寧形、「高うこざいました」という古い言い方の差の分析を、分散形態論を用いて分析した。形容詞の構造、特に時制や丁寧素性の位置に関する考察を行い、これは今後の、複合語を含めた形容詞の分析に有用となろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
著書を刊行できた。また論文を1本刊行予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
実績の概要でも触れたが、今年度の新たな研究として動詞と形容詞の丁寧形の形態分析がある。複合語とは直接つながらないが、丁寧形の分析は動詞と形容詞の構造の本質や違いについて、新たな知見を与えてくれる可能性があり、今後も傾注していきたい。課題の1つに時制と丁寧接辞の順序の問題がある。「高かったです」では時制が先に出るが、「食べました」では丁寧接辞が先に出る。これと品詞の違いをどう理論的に関連づけるかが問題で、1つの可能性が入れ替え(metathesis)である。動詞につく「ます」の語源は動詞の「参らす」だが、この動詞の特徴を、「ます」になっても保持していると考える。加えて、動詞は語末に現れることができないという仮説を想定すれば、metathesisにより「食べました」では丁寧接辞が先に出ることが説明できる。この仮説を推進するには、動詞や形容詞というものがいかに成り立っていて、それを文法がどう認識するか、という問題が関わってくる。また、連用中止では、動詞のみが現れて、必然的に語末に出るが、このこと先の制約といかに整合するか、という問題も新たに発生する。最適性理論のような、違反可能な制約を想定する必要があるか、今後検討が必要である。
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Causes of Carryover |
発行される図書の不透明性による誤差である。 次年度も、研究動向に精通するための図書購入に使用する。
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Research Products
(3 results)