2019 Fiscal Year Research-status Report
「ペルシア語化」の諸相に関する類型論的研究―ワヒー語とクルド語の事例を中心に
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19K00546
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
吉枝 聡子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (20313273)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | イラン諸語 / パミール諸語 / ワヒー語 / 東イラン語 / ゴジャール / フンザ / 少数言語 / 記述言語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年8月12日~9月5日に,北部パキスタンにおいてゴジャール・ワヒー語に関する現地調査を実施した。調査対象域はゴジャール・ワヒー語主要村落とし,グルミット村出身のインフォーマントの協力を得て,同言語について,機能やシステムがなお明らかになっていない文法事象のうち,以下の点について聞き取りを行った。 1. 過年度から行っている,当該言語における指示詞(近称・中称・遠称)の使い分け,および,指示詞と指示詞の縮約形の体系化に関する聞き取り調査。指示詞については,場面指示および文脈指示の両面において,その使用法に関するデータを収集した。 2. 複合動詞における動詞x^ak「~する」の二つの語幹go-/tsar-の使い分けに関する調査。x^akは不定詞としては同一の形をとるが,名詞または形容詞等との組み合わせから成る含む複合動詞の活用形では,現在語幹go-/過去語幹gox^t-または現在語幹tsar-/過去語幹kert-の,いずれか一方を用いるという使い分けが観察され,ほとんどの場合で相互入れ替えが不可能である。この使い分けの理由またはその基準となる概念については明らかになっていない。(ちなみに,類似の意味を持つペルシア語の複合動詞(-kardan)についてはこのような現象は認められない)。調査では,主要な複合動詞について,go-/tsar-使い分けの確認と,文例に関するデータ収集と分析を行った。 上記の点については調査後に成果のとりまとめと分析を行ったが,次年度以降もさらなる調査・考察を継続する予定である。また,上の作業と平行して,本課題でもう一方の分析対象とするクルド語についても,次年度以降に実施予定の調査に向けた準備段階として,文献ベースでの基礎データ収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.ゴジャール・ワヒー語については,当初の研究計画に沿って現地調査を実施し,文法分析に関する聞き取り調査を行ったこと。また,今後も継続調査が必要であるものの,これまで未解明であった同言語の文法事象について,分析のための基礎データと文例が収集できた点。 2.「ペルシア語化」のもう一つの比較対象ケースとしているクルド語について,次年度以降の調査実施に向けた基礎データ収集を行ったこと。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の2年目となる2020年度は,パキスタンとイランで言語調査を実施し,さらに分析を進める予定である。パキスタンでは,ワヒー語の下位方言間におけるアラインメントの変容を捕まえるために,これまで調査対象としてきたゴジャール地域(パキスタン側ワヒー語の主要分布域)に加えて,ペルシア語化の強い影響が指摘されているヤスィーン地域(ゴジャール地域の南西に分布)での調査を実施したい。イランでも同様に,特に格標示システムを焦点とした,クルド語下位方言に関する調査を行う予定である。ただし,これらの調査は,新型コロナ感染拡大による渡航自粛状況を考慮に入れながら,時期を決定する必要性が生じてきていることを付記しておく。
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Causes of Carryover |
購入物品が予定していた金額を下回ったため,上記の差額が生じた。翌年度以降,外国旅費または消耗品と合わせて使用する予定。
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Research Products
(3 results)