2019 Fiscal Year Research-status Report
「移動」としての所有者句外置について:文と名詞句との平行性の観点から
Project/Area Number |
19K00548
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
綾野 誠紀 三重大学, 教養教育院, 教授 (00222703)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 所有者句外置構文 / 移動分析 / コントロール分析 / 名詞句 / 比較統語論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究プロジェクトでは、文レベルのコントロール構文(例: John expects to win)に相当する所有者句外置構文を同定し、移動分析を支持すると考えられる新事実を提示することを目指すと共に、文レベルでの上昇構文(例: John seems to win)に相当すると考えられる所有者句外置構文を同定し、その特性を明らかにすることも目的としている。後者のタイプの所有者句外置構文については、2013年以降。移動分析を支持する新事実が提示されている(Deal 2013, Kishimoto 2013)。そこで2019年度は、上昇構文に相当すると考えられる所有者句外置構文について検討した。具体的には、Miyagawa & Tsujioka (2004)において検討された2種類の二句を含む構文を再検討した。その結果、所有者句外置構文が関わる事実があることを明らかにし、さらに、分析対象とした所有者句外置構文には、所有者句と被所有句の間に分離不可能関係が観察されないことから(例:ケンがエリに(こっそり)楽屋に花束を送った)、移動分析の可能性について検討した。尊敬語化(Kishimoto 2013)やスコープに基づき移動を支持する証拠があることを示した。一方で、被所有句に所有代名詞を前置することができる事実(例:ケンがエリに(こっそり)彼女の楽屋に花束を送った)は移動分析への反例であると同時に、当該所有者外置構文が実はコントロール構文であることを示唆している。そこでコントロール構文として考えられている日本語のコト定形節における顕在的な代名詞主語との関連性について考察を行った。その結果、2種類の二句を含む所有者外置構文は、コントロール文に相当することを明らかにした。また、コントロール文には移動が関与しているとするHornstein (1999)等の分析に基づき、また、移動を支持する証拠により、当該所有者句外置構文において所有者句が被所有句内から移動していると結論づけた。この研究成果を論文として刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトで目指している上昇構文に相当する所有者句外置を同定する為に、所有者句と被所有句の間に分離不可能関係が関与しない構文について検討した結果、コントロール構文である可能性が高いことが判明した。予測していた結果とは異なる研究成果ではあるが、分離不可能関係と所有者句移動とは独立していることを示唆する事実が得られたことにより今後の課題がより明確になった。研究の進捗状況としては、概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の研究では、分離不可能性と所有者上昇(移動)とは独立している可能性が高いことを明らかにすることができた。今後はさらにこの2つの要素の関係についての検討を進めると共に、文レベルでの上昇構文に相当すると考えられる所有者外置構文を同定し、その被所有句(名詞句)の統語構造について明らかにする。また、コントロール構文に相当すると考えられる所有者外置構文の分析をさらに進める。2020年度については、移動分析と基底生成分析の間で見解が分かれる現象について検討を進める。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の拡大により、年度末に計画していたデータ収集及び成果発表のための出張、また、物品等の購入ができなかった。2020年度に状況が改善され次第、データ収集及び成果発表のための出張を行うと共に、物品等の購入も進める予定である。
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