2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K00559
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Research Institution | Showa Women's University |
Principal Investigator |
浅田 裕子 昭和女子大学, グローバルビジネス学部, 准教授 (10735476)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 日本手話 / 複合述部 / 複合語 / 結果構文 / 連濁 / 非対称分析 / 統語論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本手話における複合述部の特性を記述的に明らかにし、統語構造を明らかにすることを主な目的としている。本年度は、初年度から開始した日本手話の複合形態に関する研究で、一連の成果を出すことができた。まず、群馬大学との共同研究調査の結果、従来研究では明確にされていなかった日本手話複合語の音韻パターンを明らかにした。手の動きの繰り返しをもつ2つの語(サイン)が複合語を形成する場合、繰り返しの回数は、①対称的音韻変化②非対称的音韻変化③音韻変化なしの3タイプが確認できた。動詞由来の複合語を例にとると、①「飲み食い」②「常勤」③「インフルエンザ検査」の場合、複合語を構成する2つの要素の手の繰り返しの回数は、それぞれ①1回+1回、②1回+2回、③2回+2回の3タイプになる。そして興味深いことに、これらの3タイプは、音声言語の複合語分類で知られるScalise & Bisetto (2009)の3つの意味タイプ(並列・限定・従属)にきれいに対応している。更にこれは、日本語の動詞由来の複合語に観察される連濁パターン(例:「窓拭き(ふき)」・「空拭き(ぶき)」)にも対応しており、本研究が構築した日本手話の複合語の統語分析の実証性が高いことを示唆している。この結果は、2020年9月の国際学会で発表し、予稿集論文が2021年度に公刊予定である。 次に、日本語の「刺し殺す」「吹き消す」に対応するような複合動詞についてのデータ収集を開始した。影山(1993)以来、日本語の複合動詞では、外項の有無が一致しない組み合わせは許されないが、日本手話ではそうではない。ただ、これら「刺し死ぬ」「吹き消える」のような複合動詞の第二要素が本当に「動詞」としての特性をもっているかは議論の余地がある。従来の手話言語研究ではこれらを非対格動詞として扱っているものが多いが、次年度にかけてこの点を検証していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題2年目である2021年度は、コロナ禍で当初予定していた対面でのインタビューを実施することはかなわなかったが、インタビュー形式を、オンラインでの動画のやり取りやZoomでのセッションに切り替え、ほぼ予定通り、研究を進めることができた。数年来交流のある日本手話ネイティブサイナーより引き続き密な協力を得ながら、動詞由来の複合語に関するデータを収集することができ、調査で得られた研究成果を協力者であるネイティブサイナーへ頻繁にフィードバックすることで更なる知見を得ることができた。調査項目に関しては、日本手話における複合述部の音韻パターンが当初の予想以上に複雑かつ精密な構造になっていることが観察できたため、複合動詞の振る舞いを観察する前に、動詞由来の複合語研究から調査を開始した。これにより、生成文法の枠組みの中でも特に分散形態論において最近注目されている語根レベルでの複合形態(Harley 2009など)についての知見が深まり、次年度に取り掛かる複合動詞の分布に関する見通しが非常に良くなった。また、2020年度の成果は、人間言語の一般理論への貢献のみならず、ろう児の言語発達、手話学習者の教育における含意を多々得ることができ、概ね順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2021年度は、日本手話の複合動詞と結果表現を中心とする複雑述部の特性の記述をまとめ、初年度に始めた動詞由来の複合形態に関する研究成果とあわせて、体系的な分析を行い、一般言語理論への貢献をめざす。具体的には、次のリサーチクエスチョンについて、調査・分析を進める。 1.「動詞由来の語+名詞」がもつ音韻パターンバリエーションが、複合動詞「動詞+動詞」でも同様に観察されるかどうか。特に、利き手と非利き手がそれぞれ別の形態素を表出し、それらを同時にサインすることが可能かどうか、またそれが可能である場合、手を入れ替えることが可能か、その場合、意味が変わるかどうかについて検証する。これは、音声言語では観察することができない重要な検証であり、その結果は、現在議論が活発になっている、語根レベルでの複合形態の仕組みについての一般言語理論への含意が期待される。 2.複合動詞「動詞+動詞」では、日本語の複合動詞に観察されるような他動性調和(影山1993)が観察されるか、もしそうでないならそれはなぜか。記述を説明できる分析を構築する。 3.結果構文における2タイプの構文(① 太郎/ 車/赤い/塗る ② 太郎/ 車/塗る/赤い ‘太郎が車を赤く塗った’)の文法容認度を確認する。「黄色」「きれい」など、辞書形に繰り返しをもつ結果表現の手の動きの重複回数に着目し、音韻特性も調査する。特に、ドイツ手話((Loos 2017)で言われているようにこれら2タイプが同一構文なのか、統語・意味特性の違いを注意深く検証し、2タイプの語順を導出できる分析を提示する。その上で、2で検証した「刺す+死ぬ」のような結果動詞の構文分析との統一説明理論を構築する。
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Causes of Carryover |
(理由) 新型コロナの影響で、3月に予定していた研究セッションが延期となったため。 (使用計画) 2021年度の謝金の支払いに充当する。
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Research Products
(3 results)