2020 Fiscal Year Research-status Report
The forefront of the historical morphology of Indo-European: the origin of the thematic vowel in verbs
Project/Area Number |
19K00571
|
Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
吉田 和彦 京都産業大学, 外国語学部, 教授 (90183699)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 比較言語学 / ヒッタイト語 / アナトリア諸語 / 音法則 / 借用語 / アクセント |
Outline of Annual Research Achievements |
今後の印欧語比較言語学の発展の鍵を担うアナトリア諸語を研究の中心にすえて、動詞形態論に関する実証的な分析を進めた。今年度のもっとも大きな成果は、古い時期のヒッタイト語にみられる能動態3人称複数過去語尾-arの起源を解明したことである。通常の能動態3人称複数過去語尾は-erであるが、uemiyar ‘they found’、haniyar ‘they drew it’、sausiyar ‘they scouted’というように、-arによって特徴づけられる3つの形式が記録に残っている。このうちuemiyar (< *au-h1em-ye-r)については、eという母音から語根にアクセントがあることが分かる。またhaniyarについては、語根のhan-にアクセントの位置を表すscriptio plena(溢音)がしばしばみられることから、語根にアクセントがある。さらに、sausiyarについては、インド・ミタンニ*spasya- (< *spek-ye/o-; cf. Lat. specio;, Gk. skeptomai, OHG spehon)からの借用語であり、比較言語学的根拠から語根にアクセントがあることが分かる。したがって、これらの形式はすべて語根にアクセントが落ちる-ya/e-動詞である。 この動詞語尾-arを祖形*-erから導くための最も自然な分析は、*-erの直前にアクセントがある場合、*-erはヒッタイト語において-arになるという音法則を提案することである。つまり、アクセントを有する*-erは-erのままであるが、アクセントのない*-erは-arになるという解釈である。同様の音韻的現象は語末の*-enにおいても観察される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究はおおむね順調に進んだ。新しく得られた知見に基づいて書いた論文はすでに審査済みで、近いうちにアメリカの出版社から公刊される。
|
Strategy for Future Research Activity |
歴史比較言語学的研究の推進のためには、広い視点に立って種々の音韻的・形態的要因を考慮に入れなければいけない。特に、古い特徴を保持していると考えられる、例外的で逸脱した言語特徴に注目することが重要である。現在取り組んでいる研究の公表については、6月にコーネル大学でオンラインで開催される印欧語会議において発表する予定である。このような機会を活用し、各国の研究者との国際的な連携のもとで、意見交換の機会を積極的につくる。
|
Causes of Carryover |
今年度に参加を予定していたアメリカでの学会がコロナ禍によりオンラインのかたちで開催されたため、旅費を執行することができなかった。次年度は延期される学会が対面で開催可能なら参加する予定である。開催が不可能な場合は、資料収集や資料購入に充てたい。
|
Research Products
(4 results)