2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K00578
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
荒木 典子 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (40596988)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大野 広之 首都大学東京, 人文科学研究科, 客員研究員 (20837257)
小松原 ゆり 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (40782793)
鋤田 智彦 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (60816031)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 満漢西廂記 / 漢字音表記 / 大遼国史 / 清文鑑 / 中国伝統思想の継承 / チベット仏教 / ガワン・ツルティム / 乾隆後期の対チベット政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
荒木(代表者)は主に、昨年度末にイギリス・大英図書館で閲覧および全文を写真撮影した『西廂記』の満文訳本 Tuwancihiyame dasaha si siyang gi bithe の本文の研究を進めた。『満文西廂記』諸版本の体系を全体的に把握することを目的とし、他の版本と満文訳の比較を行っている。この他、関連作品として位置付けている『満漢並香集』の第三章訳注を発表した。 鋤田(分担者)は主に、満文資料における漢字音表記を通して中国北方語音に対する研究を行った。対象資料としては『大遼国史』、『満漢西廂記』、『御製増訂清文鑑』であり、異なる年代の資料を取り上げることにより、通時的な変化の把握に努めた。また、北京大学中関新苑で行われた研究会に参加し、漢字音の満洲字表記についての総合的な発表を行った。 大野(分担者)は、主として昨年度までに北京・天壇に収蔵されている滿漢合壁形式の御神体についての研究を進めてきた。既存の先行研究では観られない言語資料の新たな発見によって、御神体本文の研究を主眼としながらも、収蔵状況から明清時期の為政者は想定以上にデリケートに扱っており、中国伝統思想の継承発展に努めていたことが明らかとなった。 小松原(分担者)は、『乾隆朝満文寄信档訳編』収録のチベット仏教ゲルク派の高僧でチベット政府の摂政を務めたガワン・ツルティムに関する満文档案を用いて、乾隆帝の対チベット仏教認識と乾隆後期の対チベット政策との関係を分析した。同時に、ガワン・ツルティムと北京のチベット仏教世界との関係を解明し、その成果を12月第5回清代言語接触研究会において報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文学・言語、思想、宗教の各分野をそれぞれが分担して研究に従事した。まず、文学・言語分野(荒木、鋤田)については、『満漢西廂記』の版本についての調査が進んでいる。既知の版本については異同の対照が進行中である。互いに酷似した複数の康熙49年序刊本もよくみるとデザインや大きさに相違があることに気づいた。大英図書館蔵の満文のみの版本について言及している目録類も渉猟し、W.Fucks、Доржи. Банзаров、神田信夫諸氏の目にも止まっていることがわかった。文献の移動という観点からのアプローチも今後行っていきたい。未知の版本の存在、所蔵機関も明らかになりつつある。ネットで閲覧できるものもあるので、版本の系統関係の調査に役立てていきたい。言語分野の一部分である漢字音表記(鋤田)については、『大遼国史』など出版年代の明らかな歴史資料も取り入れることにより通時的な研究を行うことが可能になっている。思想分野(大野)では、文献以外の資料として天壇公園に収蔵されている御神体に注目した。何がどこに書かれているかという観点から行った実証的な研究で清朝の為政者が、漢の伝統文化を重要視していることを裏付けている。宗教分野(小松原)では、乾隆帝の対チベット仏教認識と乾隆後期の対チベット政策を研究するあたり必要な、漢文資料だけでは読み解けない複雑な人間関係の解明に、満文档案が有効的な資料として活用されている。
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Strategy for Future Research Activity |
荒木(代表者)は、大英図書館蔵本の全文ローマナイズを行い、他の諸版本との全面的な対照作業に備える。手元に写真やコピーがある、またはデジタル資料で閲覧可能な版本と対照を行い、版本の系統関係を明らかにしたい。『満漢並香集』の訳注も継続する。同時に、これらの版本に関わった人物の背景、清代から現代に至るまでの流通過程も検討する。 鋤田(分担者)は、満漢接触という観点から、満文訳された資料における漢語由来語彙についての表記(元となった漢語に近い形であるのか、あるいはより満洲固有語に近い形であるのか、および漢語音に基づく表記か、あるいは満洲固有語を用いて翻訳するのか)に対して研究を進める。対象とする資料としては『満漢西廂記』『満文水滸伝』などの小説類を中心とする。 大野(分担者)は、北京市内に残存する滿漢言語資料、就中刊本以外の抄本や石刻の所在についての調査を継続して進めていくと同時に、冬至年初の祭天行事に臨んだ乾隆帝が残した文学作品(漢詩)についての研究も並行して深めて行く。殊に暦術思考にまつわる記述をめぐっては、科学技術史の観点からの研究は散見されるものの、滿漢双方の民族による思惟構造から検討を加えた研究は従前には見られず、更なる言語資料の発見・吟味を企図していく。 小松原(分担者)は、引き続きガワン・ツルティムおよびチベット政府に関する満文档案を用いて、チベット事務に従事する清朝官僚の対チベット仏教認識を分析し、前年度に検討した乾隆帝の認識との比較を行う。さらに、主に乾隆初期・中期のチベット仏教に関連する事例を収集し、彼らの対チベット仏教意識に時期的な相違はないか、検証したい。
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Causes of Carryover |
当該助成金が生じた理由は、新型コロナウィルス感染症の流行により、研究メンバーがそれぞれ当該年度末に予定していた海外調査旅行が軒並みキャンセルになったことである。本来は、北京にて調査に必要な、高額な一次文献を入手する予定だったため、結果として旅費に加えて物品費も余った。感染症の流行が収束し次第、すぐに海外調査の再開、文献の購入を実行し、当該助成金を執行したい。もしそれがかなわない場合は、オンラインでの会議開催、有料のデータベースの閲覧、研究成果発信の場としてのウェブサイト開設のために、ネットワーク関係の設備費や、通信費に当てる。また、データベース構築にあたり、データ整理のためのアルバイトを複数人雇用する予定である。
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Research Products
(9 results)