2020 Fiscal Year Research-status Report
Analysis of Resultative Verbal Compounds in Japanese and Chinese with emphasis on Viewpoint and Subjectivity in both Languages
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19K00581
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
下地 早智子 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (70315737)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 結果複合動詞 / 日中対照 / 視点 / 主観性 / 主体性 / ヴォイス / 誤用分析 / 受動文 |
Outline of Annual Research Achievements |
結果複合動詞とは、前項動詞が原因となる動作行為を表し、後項動詞がその動作行為の結果を表すタイプの複合動詞を指す。本研究では、結果複合動詞について日本語と中国語でそれぞれ研究課題とされてきた特徴的な現象を、認知言語学における「視点」と「主観性/主体性」の観点から分析し、両言語における同形式の認知類型論的な特徴を日中双方向から明らかにする。 今年度の実績は以下の2点である。 まず、昨年度まとめた本課題の準備段階に当たる課題「他動性に対する「視点」の作用に関する日中対照研究:認知意味論に基づいた誤用分析」(基盤研究C、課題番号:16K02692)において作成した、双方の言語を学習する日中両言語話者の作文から誤用例を収集して分析した結果とその考察を、"Transitivity and Morphological Voice in Japanese and Chinese from the Perspective of Cognitive 'Viewpoints'"という題目で、the 32nd North American Conference on Chinese Linguistics(NACCL-32)において2020年9月に口頭発表を行った。この内容については、現在論文執筆を進めているところである。 中国語のRVCは、受動文や「把」構文と呼ばれるある種の使役構文、非対格構文など、様々なヴォイス現象に直接関わっており、どのような組み合わせのRVCがいずれの構文を形成するかに関しても議論が集中してきた。今年度の2点目の実績は、上記一つ目の分析結果から、日本語と中国語の受動文の意味特徴として様々な角度から論じられてきた「被害・迷惑」の意味分析に示唆を得た点である。この考察については、次年度の6月に中日理論言語学研究会において招待発表することが決まっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の具体的な課題は以下の3点である。1. 日本語学の問題意識、すなわち動詞の組み合わせのあり得るパターンという観点から見た中国語のRVCの整理と日本語との対照;2. 中国語のRVCをめぐる構文現象の整理と日本語との対照;3. 以上の結果に対する「視点」と「主観性/主体性」の観点による分析。 「研究実績の概要」で述べた1点目のデータから、日本語母語話者に最も多い誤用は、RVCのいずれかの動詞を欠く例であり、中国語母語話者に最も多い誤用は、自動詞と他動詞の混乱であることが分かった。この発表では、変化事象を「原因-結果」のスキーマを用いて事象の外の視座から分析的に把握するのに対し、日本語母語話者は、事象の中の視座から体験的に把握することが、以上の誤用と関係していることを主張した。また、中国語のRVCには、日本語の結果複合動詞に相当しないタイプのものが多く、むしろ自他有対動詞のように、形態論レベルのヴォイス転換を担っている形式であることを主張した。この主張は、日本語が機能辞で行っていることを中国語は内容語で行っていることを意味するが、裏付けとなる先行研究は国内外の中国語RVC研究にも見られる。この考察結果から、中国語の受動文がRVCを典型的な述語形式とする点について示唆を得ることができる。 以上のように、課題2に移行出来ている点から、演繹的考察はある程度進捗している。しかしながら、当初2年目に行う予定であった自然な口頭談話からの用例収集作業には着手することが出来なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、論文一本を学術誌に投稿すること、研究発表一件を実施すること、自然な口頭談話からの用例収集作業に着手すること、の3点を予定している。 1点目は、2020年9月にNACCL-32において口頭発表を行った"Transitivity and Morphological Voice in Japanese and Chinese from the Perspective of Cognitive 'Viewpoints'"を論文にまとめる作業であり、現在既に進行中である。 2点目は、中国語のRVC関連構文の一つである受動文の意味分析について、日本語との対応関係から考察を進めた分析を6月に開催される第52回中日理論言語学研究会シンポジウム『漢語と諸言語の比較』において、「ヴォイスのレベルと日中受動構文における「被害」の意味--「受動者への感情移入」か「変化結果の強調」か」(Voice Levels and Disparity of Adversity in Japanese and Chinese Passive Constructions: Is It “Empathy to the Patient” or “Emphasis on the Resultant Meaning”?) という題目で発表することが決まっており、準備に着手している。 以上、2つの作業を今年度上半期に終わらせることができる見込みであり、下半期には自然な口頭談話から、場面付きの用例を収集する作業を始めることとする。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、勤務校におけるオンライン移行の業務が拡大し、思うように研究に時間が取れなかった。また、6月に予定されていた国際学会が9月に延期になり、その後さらにオンライン開催に変更されたことから、旅費と参加費の支出がなかった。以上の状況より、「現在までの進捗状況」に記したように、特に用例の収集とデータ化の作業が大幅に遅れている。 次年度は、9月に発表した内容を論文化するので、英文校正費に支出が生じる。また、書籍購入、用例のデータ化と整理に用いるソフトウエアやデバイスの購入、学会参加にかかる費用として支出する予定である。
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