2020 Fiscal Year Research-status Report
Typological investigations of the concept of "construal" in cognitive linguistics
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19K00603
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
守田 貴弘 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (00588238)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ダイクシス / ジェスチャー / 主観性・客体性 / 類型論 / 認知言語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は主体性の観点から収集済データの数を限定して分析を行った.言語とジェスチャーの両方を用いた実験においては,やはり以前に実施した発話実験のときと同様の結果となり,日本語ではダイクシスが表現されるのに対し,フランス語では表現されないことが再認された.しかし,ジェスチャーでは,言語で表現されないダイクシスがフランス語でも日本語と同等の頻度で表現されることが明らかとなった. 主体性の観点から日本語は主体的な言語,フランス語は客体的な言語であると従来は考えられてきたが,本研究の分析でもこの傾向を追認することができる一方で,日本語でも客体的な言語表現が一定数,見られることが分かった.さらに,この分析をジェスチャー分析に持ち込み,客体的・主体的なジェスチャー表現の区別を立てたところ,日本語話者においても,フランス語話者においても,言語表現とジェスチャー表現の主体性レベルが混在する場合があるなど,言語表現が話者の事態認識を表すと考えることを許さない現象があることが分かった.ここから,認知文法におけるconstrualという概念を類型論ではいかに受容すべきかという問題についての考察をまとめ,「認知言語学と言語類型論」という論文として発表した. 2年目終了時点において,(1)ジェスチャーのレベルでは,統計的有意差は議論できないが,客体的な表現はむしろ日本語話者の方で頻度が高い可能性があること,(2) 日本語ではジェスチャーと言語でダイクシス表現が余剰的になっていることとそうではない場合があり,日本語の言語的ダイクシス表現が表す心理的意味がフランス語で表現可能なのか,可能ならばどのように表されるのかという課題が残っている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フランス語話者に対する新規の実験がやりづいらい状況になってはいるものの,現時点までに「捉え方」概念に対する基本的な考え方をまとめるに至っている.さらに,研究課題を達成するための新たな課題が見つかっており,それは渡航や新規の実験を必要とするものではないため,研究を遂行することは十分に可能である.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)ジェスチャー・レベルにおける主体的表現・客体的表現それぞれの頻度は,従来の主体的言語・客体的言語という類型と関連するものなのか,関係ないものなのか,(2) ジェスチャーと言語でダイクシス表現の意味が異なり,言語が心理的意味を担っていると考えられるとき,同等の意味を他の言語で表すことの可能性はどうなのか,可能ならばいかにして可能になるのかという機序を明らかにするという課題が残っている.(2) が本来の研究課題に直結する問題であるが,これにはフランス語話者を対象とした新たな実験が必要であるのに対し,オンラインによる実験で十分な成果が得られる見通しがまだ立っていない.そのため,今後は,以前に行った発話実験から,フランス語において心理的な意味を伴うダイクシス表現の有無を再分析することで,心理的あるいは機能的意味と呼ばれるダイクシスの存在を調査するという方針をとる. (1)については,まずジェスチャーによるデータをすべての録画データに広げることで,日本語話者およびフランス語話者がどのようなジェスチャーを使う傾向にあるのか,統計的な議論が可能となるところまで分析を進める.その上で,従来の主体性に関する言語的類型とどのような関連があるのか,文献を交えた議論を行っていく. 上述の通り,(2)が本来の申請課題に近く,(1)は研究を進める中で新たに持ちあがった派生的課題ではあるものの,認知言語学における「捉え方」概念を理解するという目標に照らして(1)は(2)と同等の重要性を持っていると考えられる上に,現時点の社会的状況においては(1)の方がより調査しやすいため,(1)の課題を中心としながら,(2)の検証方法のデザインを検討していくこととする.
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Causes of Carryover |
当初予定していた渡航しての実験が不可能であり,必要とする旅費・謝金等が発生しなかったため.2021年度はオンラインによる実験協力謝金や論文校閲などにかかる謝金・人件費が発生する見込みであり,渡航が可能になれば現地対面による実験および被験者に対するインタビュー等に使用する計画である.
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Research Products
(1 results)