2021 Fiscal Year Research-status Report
公共空間における口頭アナウンス表現を中心とした発話の簡潔性に関する日仏対照研究
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19K00605
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
安齋 有紀 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 准教授 (80636093)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 公共空間 / 音声アナウンス / 依頼表現 / プロソディー |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、長期化したコロナ禍という社会情勢における公共空間のアナウンス表現に注目した。事実、不特定多数の人が集まる公共空間では、マスクの着用やソーシャル・ディスタンス、集団での飲食に対する制限など、諸施設では利用者に対する協力要請や、場合によっては注意(警告)のアナウンスが、国内外で継続的に実施されている。特にフランスでは具体的な罰則など厳しい規制措置を繰り返し音声で通告せざるを得ないという事情から、公共交通機関の音声アナウンスの作成・担当部署では利用者の反応を映像から検証し、テキストの長さや表現の適切性・効率性を検討している。このような特殊な状況では、公共空間における種々の「規制」に対する不満や反発が増加しており、メッセージの受信者の心理的負担を軽減するにはどのようなアナウンスが適切であるか、言語表現が焦点となっている。日本における音声アナウンスにおいても、「なるべく」「できる限り」や「みなさまのために」など、施設利用者への配慮を示す緩和表現が多く観察されるが、婉曲度合によっては依頼行為の遂行力が下がり、メッセージの発信者が目指す「規制」に至らない可能性がある。そこで、利用者とのトラブルを回避すべく緩和表現を折り込みながら、依頼行為の遂行を促す簡潔かつ効率的なアナウンス表現について、コミュニケーションや対人関係が不調に陥らないための対話調整の一現象として検討するため、事例の収集を行った。なお、令和3年度に関しても国内の移動およびフランスへの渡航が困難であったため、本来フィールドワークによって収集すべき音声データを令和2年度と同様にインターネットや公共機関・団体の公式HPなどを通して入手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
令和3年度も国外への移動制限があったためフランスへ渡航できず、予定していた本研究の対象である公共空間(空港や駅など公共交通機関、ショピングモールなどの施設、道路や公園など)における音声アナウンスの録音、語彙データ収集など事例研究にむけたフィールドワークを行うことができなかった。しかしながら、日仏共同研究グループLe Genre bref dans l’espace publicがパリ第3大学で2ヶ月毎に実施している定例研究会(オンライン開催)に参加し、日本の研究グループでもオンラインで定期的に研究の進捗状況について報告を行った。以上の国内外の研究メンバーとの意見交換を通して、令和4年に日本で開催する国際シンポジウムの日程、メインテーマ、ゲストスピーカー、開催方法など具体的に決定するに至った。また、今年度収集したデータを分析し、先に記載した国際シンポジウムでの口頭発表および投稿予定の論文の執筆準備を中心に進めてきた。よって、今年度はこれまで遅延していたデータ収集(先に述べた通り、現地収集には至らず)と、令和4年度開催のシンポジウムでの発表および論文執筆の準備に留まったため、年度全体の進捗状況についてこの評価とした。 なお、この進捗状況を踏まえて研究期間の延長申請を行い、令和4年も本研究を継続中である。
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Strategy for Future Research Activity |
公共空間において、ある行為を依頼する側とされる側(メッセージの行為遂行者)の双方が種々の「規制」に対応せざるを得ない状況で、日本では配慮を示す緩和表現が多く観察されるが、婉曲度合によっては依頼した行為の遂行力が下がり、発信者の目的が達成されない可能性がある。フランスでは規制の内容を繰り返しアナウンスする際、定型表現だけでなく個人が語りかけるような音調・表現を検討している(ラジオのDJや気象予報のような口調=発信者の個性と企業・団体としての公共性の共存が必要)。よって、令和3年度の研究を発展させる形で依頼(要請)と配慮のバランスが言語表現でどのように構築されるのか検討する。さらに、事故の危険性が高い場面や、災害時など緊急性が高くなると、音声アナウンスは文字表記のような簡潔な表現になる傾向が観察される。つまり、丁寧な表現の使用が困難となり、メッセージの受信者が抵抗感を持つ可能性がある。一方で「気づき」(緊急性の高さ:ただ事ではないという印象)をもたらすことが可能となる。このようなケースにおける配慮の方法についても検討する。これらの考察および成果の発表を以下のとおり実施する。 【研究体制】対照言語学の日仏共同研究グループLe Genre bref dans l’espace publicにおいて、フランス側研究グループおよび国内の研究者との研究会・セミナーを継続して行う。また、渡航が可能になり次第、フランスでのフィールドワークを実施する。 【口頭発表】令和4年10月28日から30日に開催予定の同研究グループによる国際シンポジウムで発表。 【論文発表】令和5年に上記シンポジウムの内容を論文として発表。また、同研究グループでの研究成果を学術誌の特別号に掲載予定。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大の影響により、令和3年度も国内および海外への全ての出張(フィールドワークを含む)が中止となったため、当初予定していた旅費の支出がなく、計上していた 費用の大半を翌年度に繰り越した。令和4年度は、日本で開催する国際シンポジウムの研究者招聘費(旅費)および、状況に応じて年度後半でフランスへの渡航が可能になった場合は、旅費(フィールドワーク、学会参加用)として使用する。さらに研究機材の更新および書籍費等に充てる予定である。
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