2022 Fiscal Year Research-status Report
公共空間における口頭アナウンス表現を中心とした発話の簡潔性に関する日仏対照研究
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19K00605
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
安齋 有紀 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 准教授 (80636093)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 公共空間 / 音声アナウンス / 日仏対照 / 発話主体関係 / 人称表現 / ユーモア・アプローチ / 配慮 |
Outline of Annual Research Achievements |
公共交通機関の音声アナウンスで、利用上の注意や禁止事項、利用者に対する警告や協力要請など、行動を規制する内容を伝える場合、即ち依頼する側とされる側(メッセージの行為遂行者)の双方が種々の「規制」に対応せざるを得ない状況において、日本では配慮を示す緩和表現が多く観察される。しかし、婉曲度合によっては依頼した行為の遂行力が下がり、発信者の目的が達成されない可能性がある。一方フランスでは、規制の内容を繰り返しアナウンスする際、担当する職員がラジオやテレビのパーソナリティーのように個性を表出し、「個人」が語りかけるような手法が近年増えていることがわかった。その事例として、これまで公共性の高い場面での音声アナウンスでは使用されていなかった一人称代名詞単数形"je"が発話主体として公共空間で多様される現象があげられる(論文発表:「公共空間のメッセージにおける一人称 je」)。さらに、長期化したコロナ禍という社会情勢において、フランスの公共交通機関では注意や警告を伝える場面でユーモアを取り入れたアナウンスが多く観察された。それらのアナウンスは利用者から概ね好意的に受けとめられ、利用者が即時にSNSを介して応える事例も見られるなど、特殊な対話空間が作り出されていた。これらの調査と考察の結果、公共空間の音声アナウンスにおけるこのような人称表現の変化や、言語行動の多様化が、フランスではマナー遵守の点で一定の効果を発揮していることを示した(口頭発表:「公共空間のアナウンスにおける受信者への配慮」ー令和4年10月29日-30日開催の言語学国際シンポジウム「公共空間における発話文への受信者の関与」にてー(発表言語:フランス語))。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度は国内外での移動制限が緩和されたため、フランスから研究者を招聘することが可能となり、令和3年度から日仏共同研究グループで企画・予定していた国際シンポジウムを日本(東京)で開催することができた。 令和4年度は、令和2年度からWebサイトを介して収集してきたデータの分析を中心に、令和3年度の研究を発展させる形で、依頼(要請)における規制と配慮のバランスが言語表現でどのように構築されるのか検討した。その考察について、上記の国際シンポジウムで口頭発表を行い、研究成果として論文(2本)を投稿した(うち1本は令和5年度刊行)。昨年度に立てた研究計画を概ね実施できたことから、年度全体の進捗状況についてこの自己評価とした。 ただし、令和4年度もフランスでのフィールドワークは実施できなかったため、これまで遅延していた作業を含め、研究全体の進捗状況を踏まえて、研究期間の再延長申請を行った。よって、令和5年度も本研究課題を継続中である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度も、継続して対照言語学日仏共同研究グループがパリ第3大学を中心に2ヶ月毎に実施している定例研究会(オンライン開催)に参加し、フランス側の研究グループとの意見交換を行う。日本側の研究グループ内でも定期的に研究の進捗状況について相互に報告を行う。さらに、令和6年度科研費申請を踏まえた今後の研究に向けて、これまで行えなかった現地(フランス)でのフィールドワークを実施する(11月予定)。研究成果の発表については、以下のとおり実施する。 【口頭発表】令和5年11月24日にフランス(ロレーヌ大学)で開催される国際シンポジウムで発表予定。 【論文発表】令和5年度内に、令和4年度の国際シンポジウムの発表内容を論文としてまとめ、他の発表者の論文と合わせた論文集を書籍としてフランスの出版社から発行。その他、これまでの研究成果を論文として投稿予定。なお、ロレーヌ大学でのシンポジウムの内容は、令和6年度に論文として発表予定。
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Causes of Carryover |
令和4年度は、日本で国際シンポジウムを開催したため、フランスからの研究者招聘費(旅費)の支出に留まり、当初予定していた海外への出張旅費の支出がなく、計上していた費用を翌年度に繰り越した。令和5年度は、フランスへの出張旅費(フィールドワーク、ロレーヌ大学での国際シンポジウム参加用)として使用する。さらに、令和4年度に開催した国際シンポジウムに係る研究成果を書籍として刊行するための出版費に充てる予定である。
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