2019 Fiscal Year Research-status Report
近代中国語資料たるUCB蔵フライヤー・コレクションに関する基礎的研究
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19K00614
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
千葉 謙悟 中央大学, 経済学部, 教授 (70386564)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フライヤー文庫 / ジョン・フライヤー / 北京語 / 上海語 / 翻訳語 / 東西言語文化交流 / 蔵書目録 |
Outline of Annual Research Achievements |
カリフォルニア大学バークレー校の東アジア図書館に蔵されるジョン・フライヤー文庫は、19世紀中盤から20世紀初頭にかけて活躍したイギリス人ジョン・フライヤーの収集した漢籍や自著を収め、その内容は近代東西言語文化交流史上注目すべきものと評価できる。その中には彼が長年勤務した江南製造局において翻訳した訳書の草稿や、未刊の自著の原稿およびそれらの資料などが含まれている。加えて筆者はフライヤー自身の編になるとおぼしい北京語や上海語のテキストの草稿を発見している。研究計画に述べたとおり、研究の第一年目ではフライヤー文庫の目録を発表することを目標とした。 フライヤー文庫は300種あまりの文献から成り、一定の規模を持つ。フライヤー文庫の目録はすでに製作を終えてはいるが、紙幅の制限上一度に公表することができなかった。したがって、2019年度は編纂した目録のうち前半部分を『或問』36号に発表した。ここは多くの言語資料が含まれる部分であり、特に北京語資料が多く含まれる『京華雑拾』所収の諸文献は大きな価値を持つと判断される。なお目録の後半部分については同誌の37号に投稿する予定であり、コロナ禍次第ではあるが2020年度内の刊行を期待している。 同時にフライヤー文庫に含まれる言語資料について、中国近世語学会において基礎的な紹介を行った。中でもロバート・トームの文言版『意拾喩言』を北京語に翻訳した口語版「意拾喩言」の存在を報告したことは大きな反響を呼んだ。トームの北京語訳本といえば日本人中田敬義の『北京官話 意拾喩言』(1878)があるが明らかにそれとは異なるオリジナルの訳文である。なお研究計画では2019年度には海外での研究発表を予定しており、2020年3月に中国上海における国際シンポジウムでの報告がそれであったが、コロナ禍により中止となったことを追記しておく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の1年目では目録の公表を目標としており、その前半部はすでに公刊した。目録自体はすでに完成しており、紙幅の関係で一度に公表できなかったにすぎない。後半部は2020年度の公刊を目指すが。コロナ禍の影響次第である。同じくコロナ禍により、フライヤー文庫の全貌を紹介しその価値を海外の学会で報告する予定ではあったが中止となった。 一方、2年目に予定していた計画である言語資料の分析に2019年度中に着手できたことは研究計画を予定通り推進する上で明るい材料である。『京華雑拾』所収の「意拾喩言」についてすでに報告することができた。 以上のプラスと(予想外の)マイナスの両面を会わせ鑑みるに、研究計画はおおむね順調に進展していると結論づけられるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は研究計画記載の通り、フライヤー文庫所収の各種文献から言語資料として注目に値するものをとりあげその分析を試みる。先述の北京語版「意拾喩言」に加え、北京語教科書「京話指南」の分析に着手する。同名のテキストにはフランス人外交官アンボー・ユアール(Camille Imbault-Huart)による大部な教科書があるが、それとは全く別の文献である。 「京話指南」はフライヤー自編の中国語テキストだが、興味深いのはそのタイトルが示すとおり「京話」すなわち北京語を目標言語としている点である。清末の北京語資料としては深沢暹『北京官話全編』、金国樸『北京官話今古奇観』などが紹介されているが、「京話指南」はこれらと時代的に並立する新しい文献である。このことは他の来華宣教師とは異なり、フライヤーが19世紀後半の段階で北京語の重要性を理解していたことを示す。19世紀の来華外国人のうち、イギリス人を中心に外交官には彼らの交際する北京の宗室・旗人の言語である北京語を重視する一派がおり、また一方には広大な中国全土を布教対象とするため北方方言区全体に通用する言語(すなわち南京官話)を学習する宣教師たちの一派があった。 研究発表は研究計画では国内で1回、国外で1回を予定しているが、コロナ禍によっては変更もありうる。
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Causes of Carryover |
2019年度に生じた未使用額は、2020年3月に上海で開催予定だった漢字文化圏近代語研究会2020年度学術大会における研究発表の旅費であった。コロナ禍によって中止となったが、すでに日本の年度末であったためそのまま未使用金として繰り越した。コロナ禍が2020年の早い時期に終息すれば海外での研究発表も可能になるであろうから、繰越額はそのまま研究成果発表のための旅費として使用されるだろう。
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Research Products
(3 results)