2020 Fiscal Year Research-status Report
近代中国語資料たるUCB蔵フライヤー・コレクションに関する基礎的研究
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19K00614
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
千葉 謙悟 中央大学, 経済学部, 教授 (70386564)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 中国語学 / フライヤー文庫 / 官話 / 翻訳語 / 歴史言語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の成果は主に二つの点にまとめられる。一つは前年に引き続きフライヤー文庫の目録を公開したことである。本来目録そのものは前年度中に完成していたが、掲載媒体の関係で2020年度にずれこんだ。千葉謙悟「加州大学伯克莱分校蔵傅蘭雅文庫(John Fryer Collection)目録(下)」『或問』第38号、119-148ページがそれである。去年発表した目録(上)と合わせ、フライヤー文庫の全貌を公開することができた。 もう一つはフライヤー文庫の資料の中から中国語学の研究に資する資料「意拾喩言」を取り上げ、その言語について報告した。千葉謙悟「加州大学柏克莱分校傅蘭雅文庫藏《意拾喩言》及其語言特征」『東西言語接触と文化交渉 内田慶市教授古稀記念論文集』(関西大学出版会)がそれである。「意拾喩言」は文言で書かれたロバート・トーム『意拾喩言』(1840)を口語に訳したものである。まず「意拾喩言」を太田(1969)による7つの北京語の文法特徴と対比したところ、その内6つを満たすことが明らかになった。次いでそれ以外の特徴を9つ指摘した:①明確に動態助詞と認定できる場合には「了」のみが用いられ「拉」は用いられない。その他の場合には「了」「拉」が混用される。②連動文に「去+V+去」の形式が見られる。③仮定の接続詞が「要是」と表記される。④「叫」が常用される。⑤起点を表す介詞に「従」のほか「接」と「打」がある。⑥代名詞「自各兒」が多用される。⑦量詞「個」が多用される。⑧兒化詞が多用される。⑨北京語的な語を使用する。以上から、「意拾喩言」は19世紀北京語を基礎としたものであり、その資料としての価値を持つといえる。 以上の成果は中国語で執筆した。中国語学の共通語である中国語によって成果を発信することで、その情報を広く共有できるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画のとおりに研究が遂行できているからである。具体的な進捗と成果については別添。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画通りである。 フライヤー文庫の資料の中から中国語学の研究に資する資料を取り上げ、その言語について報告したい。音声の分析を行うべく「上海土白」およびLessons in the Shanghai Dialectをとりあげる予定である。どちらも上海に滞在する欧米人を対象とした上海語の初級教科書である。この2冊は19世紀中期の上海語の音声面がラテンアルファベットで記された貴重な資料であるが、特に「上海土白」は現在目にする形式は全6冊を1冊に合訂した大部な草稿である。ここまでまとまった分量の上海語教本はこの時期において例がなく、今後の上海語研究において重要な位置を占める資料である。またこの2冊はUCBのOPAC上ではJenkinsなる宣教師の編とされているが、申請者の見るところ明らかにフライヤー編であり、単にジェンキンスの上海語ローマ字を採用しているにすぎない。これらに関する報告は管見の限り見あたらず、解明すべき点が残る近代上海語について新たな研究資料を提供することができると考えられる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:コロナ収束の兆しがみえず旅費が執行できなかったため。 使用計画:コロナが収束すれば旅費とする。しなければ図書費とする。
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Research Products
(3 results)