2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K00623
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
石田 尊 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (40387113)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 他動性 / 外項削除 / 外項抑制 / 文法格後置詞 / 後置詞削除 / 項と述部の対立 / 主格認可 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、本研究が研究課題とする日本語の統語的他動性システムに関するモデルの基幹部分の構築作業を進めた。具体的には、(1)当該モデルの構成要素として組み込まれる可能性のある文法的な「操作」の必要性を改めて検討し、(2)これを非対格自動詞、他動詞を中心とする具体的な動詞の構文において検証した。 例えば他動詞の項構造は、行為者的な項(外項)と対象/被動者のような項(内項)の2項からなるが、そのうちの外項が実際の文には現れない場合が知られている。動詞の項が一つ減り他動性が下がる場合と言えるが、この現象を説明するために何らかの文法的な操作(「外項削除」の機構)の存在を仮定することも可能である。また、基本的に二次述部として現れる後置詞句の場所要素が、後置詞を伴わず名詞句として現れる場合も知られている。名詞句の数が増えるという点では他動性が上がる場合と考えることもできるが、この現象を説明するために、後置詞Pを削除する文法的な操作(「P削除」の機構)を仮定することも可能である。 しかしながら、外項削除やP削除といった文法的な操作を仮定するには、適用範囲の狭い個別的な機構の存在理由をどう捉えるかという説明上の難点があり、そうした操作の存在を仮定・導入せずとも文を適切に出力できる、より簡潔なモデルを構築することができないか検討を行う必要がある。この問題設定に基づいて検討したところ、他動性関連主要部vに関するバリエーションの想定と、名詞的要素の導入に関する項NPと述部PPの対立の想定という、基本的かつ包括的な2つの想定を導入することで、個別的な文法的操作の機構を仮定する必要がなくなることを確認し、口頭発表として報告した。 以上の研究と合わせて、時制辞との共起関係が指摘されてきた日本語の主格認可について、その理由に関する考察を行い、一定の成果を得た。この成果についても口頭での発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初本研究では、「外項削除」や「P削除」のような個別の文法的な機構が存在する可能性も含めて、統語的他動性に関する文法モデルの構築作業を進めてきたが、過去の年度を含めたこれまでの研究成果により、そうした個別の機構を導入しないモデルが可能だと見込まれることがはっきりしてきた。この成果を元に、より慎重にかつ集中して検討を重ねることで、本研究が最終的に提示するモデルの方向性を確定することとした。この作業に想定よりも時間がかかり、研究全体のスケジュールの上では若干の遅延が生じてしまっている。ただしこれは意味のある遅延であり、より優れたモデルを提示するためには致し方ないことだと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
モデルの方向性を定めるために検討した動詞のタイプは限定的であり、今後、現代日本語の動詞タイプのすべてに渡って観察、記述、検証の作業を推進する必要がある。本研究が最終的に提示することになる記述的な文法モデルの方向性は、2021年度までの成果により定まったため、今後は広範な動詞タイプを対象にモデルの検証作業を進め、合わせてモデル自体へのフィードバックと改善の作業を行っていくことになる。 上述のように2021年度までの進捗にはやや遅れが見られており、場合によっては本研究の期間について延長申請を行うことも検討したい。
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Causes of Carryover |
2020年度に引き続き、参加予定であった日本言語学会、日本語学会等の大会がすべてオンラインでの実施になり、旅費を使用することがなかった。このため、次年度以降購入を考えていた物品等を前倒しして購入するなどしたが、結果として134,973円の残額が生じた。2022年度は直接経費として400,000円(内訳:物品費180,000円、旅費120,000円、その他100,000円)の交付を受ける予定であるが、2021年度の未使用分についてはこのうちの物品費に組み入れることとし、研究の円滑な進捗を図る。
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Research Products
(2 results)