2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00624
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
肥爪 周二 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (70255032)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 平安中期訓点資料 / 拗音 / 子音韻尾 / 漢字音 / 音節構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
石山寺蔵『守護国界主陀羅尼経』長保頃点(校倉聖教一六函一号)のデータ整理作業(大正蔵本文と対照できるエクセルデータの作成など)を行った。本資料については、昭和二十年代に大坪併治による報告があるが、大坪の報告は、LEDライトが存在しなかった時代の調査に基づくものであり、白点の読み取りにも限界があり、報告内容も、拗音および子音韻尾の表記の問題に特化し、かつ挙例も抜粋であった。本研究では、同資料の中核をなす長保頃点、つまり白点第一種(巻一~四・六~七・十)および朱点第一種(巻五)の漢字音について整理をした。当該字音点は、仮名音注八三六、類音注一一五、合計九五一(暫定数値)の字音注である。 本加点の、もっとも注目すべき特徴は、開拗音・合拗音の表記で、類音注は、開拗音・合拗音で対応しているが、仮名音注は「盛サウ・敵タク・濁トク」「活カチ・帰キ・倦ケム」等、すべて直音表記をとる点である(ここまで大坪も指摘)。ただし類音注は和製であるため、日本漢字音として合拗音とならないものについては、原音の合介音が無視される(「恋〈連〉」「権〈言〉」など)。また、平安初期にはア行表記のウ段開拗音とも解釈できた「iウ形」は、「休キウ・洲シウ・乳ニウ」のように許容され、止摂合口字について、カ行は直音表記「帰キ・愧キ」をとる一方で、それ以外は「吹スイ・墜ツイ・遺ユイ」のように「uイ形」(ア行表記の合拗音とも解せる)をとる。子音韻尾の表記は、仮名音注はm韻尾安定:n韻尾不安定という、平仮名文献や平安中期訓点資料の多くと共通の特徴を持つこと(類音注はn韻尾も安定)、「ム表記」がm韻尾・n韻尾・t韻尾に共用されることなどを指摘した(和語のm音便はム表記、量的撥音便・促音便は零表記)。また、漢音形の混入がやや多く、「欣慕コホウ」「怨敵ヱムタク」のような呉音・漢音混ぜ読みの早期の例が見られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルスの影響により、定期的に行われている関西地区の社寺での典籍調査が、今年度はすべて中止になったため。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度も、関西地区での社寺における典籍調査がすべて中止される可能性が高い。既収集のデータの整理・分韻表の作成の他、精細な複製本が刊行された『漢書楊雄伝』平安中期点をはじめとする複製本が出版されている資料の再検討(平安中期以外のものも含む)や、石山寺本『法華義疏』長保頃点など、信頼性の高い翻刻が存在するものなどを利用して、原本調査ができない不足を補ってゆく計画である。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、文献調査の予定がほぼすべてキャンセルになったため、旅費の支出が0になった。また、本務(授業・学生指導)でのオンライン対応に時間が取られ、研究活動の遂行そのものが低調であった。次年度も事態が改善されない可能性が高いが、資料の画像の入手など、原本調査の停滞を補うための費用に充てるなどして、使用してゆく計画である。
|