2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00624
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
肥爪 周二 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (70255032)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 音節構造 / 訓点資料 / 平安時代中期 / 拗音 / 撥音 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度も、新型コロナの影響により、社寺における調査がことごとく取りやめになったため、主に複製本やインターネット上の画像を利用して、データ収集および整理を行った。これを元に理論的な考察を進め、中国語から漢字音を借用した際、原音のCiV・CuVというタイプの音連続をどのように受容するか、欧米の言語からの借用(狭義外来語)においては、CjV・CwVというタイプの音連続をどのように受容するかという問題を設定し、平安初期・平安中期の訓点資料や古辞書のデータを分析し、先学による研究成果の蓄積をも加味して、以下のような見通しを立てた。 開拗音は、平安初期から仮名表記があり、シア・シヤのような2単位表記(ア行表記・ヤ行表記)と1単位表記(サ行ザ行に集中する直音表記、原則サ行ザ行のみの拗音仮名表記)および1単位的な類音表記があったのに対し、合拗音は、仮名表記は遅れて発達し、1単位表記の拗音仮名表記と、1単位的な類音表記が先行し、クワのような2単位表記(ワ行表記)は11世紀以降にようやく普及し始めること、直音表記がきわめて稀であることを指摘した。つまり開拗音は2単位的に受容するのが原則であり、サ行ザ行については例外的に1単位的にも2単位的にも受容された一方で、合拗音は当初から1単位的に受容されていたという見通しを示した。このことは『万葉集』の歌に詠み込まれる漢語の制限(拗音を含む漢語はサ行開拗音とカ行合拗音のみ)とも連動してくるという見解を示した。これに対して、近代以降の外来語の受容においては、CjVタイプの音連続は1単位的に、CwVタイプの音連続は2単位的に受容されており、上代~平安中期における漢字音の受容とは逆転していることを指摘し、その背後に「音節組織の組み換え」を想定した。 以上の成果の一部を、「漢字音の拗音と外来語の拗音」(『日本語学論集』第18集)にまとめた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの影響により、定期的に行われている関西地区の社寺での典籍調査が、今年度もすべて中止になったため、平安中期訓点資料の実地調査は、完全に停滞している。 複製本やインターネット上に公開されている画像の整理・分析は、引き続き継続しているものの、その多くが学界既知の資料であり、従来の知見を一新する、あるいは疑問を解消するデータを見いだすまでには至らないのもやむを得ない状況である。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度も、関西地区での社寺における典籍調査がすべて中止される、あるいは強い制限を受ける可能性が高い。既収集のデータの整理・分韻表の作成の他、複製本が出版されていたり、画像がインターネット上に公開されている資料の再検討(平安中期以外のものも含む)や、信頼性の高い翻刻が存在するものなどを利用して、原本調査ができない不足を補ってゆく以外、方法はないであろう。 理論面での考察は、日本語の音韻体系の「あきま」に入り込む形で定着してたと推定される合拗音について、どの時代のどの部分に「あきま」を想定するのが妥当であるかについて再検討が必要となっており、引き続き、体系的な観点から、日本語の音節構造の問題を検討していくことになる。
|
Causes of Carryover |
新型コロナの影響により、例年なら関西の社寺において行っている調査が、ことごとく中止になり、旅費がまったく発生しなかったため。
|