2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K00626
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岸本 恵実 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (50324877)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 羅葡日辞書 / 日葡辞書 / キリシタン |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)『日葡辞書』(1603, 04)ポルトガル語語釈中の借用語 『日葡』の語釈に用いられたポルトガル語の一部は、日本で編纂されたマノエル・バレト自筆『葡羅辞書』(1606, 07)およびポルトガルで刊行されたベント・ペレイラによる『葡羅辞書』(1647)に採録されたとみられる。しかし『日葡』には、そのような後年のポルトガル語辞書に採られていない、大航海時代ポルトガル人が一時的に用いた他言語からの借用語も含まれている。 (2)『羅葡日辞書』(1595)・『日葡辞書』の家畜に関する記述 『羅葡日』も『日葡』も馬・牛に関する語を多く収めるが、『羅葡日』は『日葡』よりも、羊・豚に関する見出し語や記述の多さが目立つ。これは、『羅葡日』が古代ローマ文化を源泉とするラテン語辞書カレピヌスを原典としているのに対し、日本では羊・豚は家畜としての歴史が浅く、関連する日本語語彙がまだ少なかったためと考えられる。 (3)ローマ字本・国字本伊曽保物語にみえる用語「Pastor」 キリシタン版『エソポのハブラス』(1593)および、キリシタン版と同じ祖本とみられる国字本伊曽保物語各種では、羊飼いを表すのに「Pastor/ぱすとる」という外来語が用いられている。これは、キリスト教教義上重要な語であったために『エソポ』の中でも訳されなかったポルトガル語・ラテン語のPastorが、キリシタンの手を離れた国字本でも使われ続けたものと推測される。 (4)芥川龍之介「キリシタン物」に用いられた語彙 大正期に発表された芥川龍之介の「奉教人の死」「きりしとほろ上人伝」は、明治期から大正期、新村出によって紹介されたキリシタン版を典拠の一つにしているが、「奉教人の死」の登場人物名を新村に提案された「ロレンソ」でなく「ろおれんぞ」とするなど、キリシタン時代とは異なる独自の外来語表記法を採用している語が少なくない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスのために学会発表がオンライン開催になったり、国外での資料調査が実施できなくなったりしたが、デジタル画像が公開されている資料を中心に調査し、その成果の一部を発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の研究実績(1)(2)(3)(4)とも、まだ一部論文にまとめられていないので、2021年度中に論文として公表する予定である。
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Causes of Carryover |
2020年6月ポルトガルでの開催が予定されていた国際学会が延期となり、同年9月ブラジルでの開催が予定されていた国際学会がオンライン開催になったため、旅費を執行しなかった。残額は、2021年度のデータ入力・外国語校正などの費用に充てる予定である。
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