2023 Fiscal Year Research-status Report
量性を持つ副詞句・名詞句を介在とした日本語構造変化の研究
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19K00638
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Research Institution | Shujitsu University |
Principal Investigator |
岩田 美穂 就実大学, 人文科学部, 准教授 (20734073)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 文法史 / 条件 / カギリ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、量性を持った名詞句・副詞句要素が、その量性を媒介として名詞句から副詞句へ、副詞句から名詞句へと変化する過程の一端を明らかにすることである。前者の例として限定を表すギリ・カギリ、後者の例として並列形式を取り上げる。本年度は限定の働きを持つ名詞カギリが副詞句的に用いられ条件文として解釈される変化について、カギリの持つ各用法と条件用法との関係を考察し、研究会において発表を行った。並列形式については、ト・ヤ・ニについて考察し、論文を執筆した。 カギリの概要は次の通りである。 上代・中古においてカギリの単独用法は、「限りある命」のように限界点を表す。一方、連体修飾節を伴うカギリでは、「世にあらむ限り」のように「限界点まで一杯」という「全量」を表す例が多い。全量には、「生けるかぎり」のような期間、「みなあるべきかぎり」のような数量、「心のいたる限り」のような抽象量がある。また、「あやめの蔵人かたちよき限り選りて(あやめの蔵人で見た目のよい者だけを選んで)」のような「限定」の意味を表す例も見られる。「ある範囲の中の全て」は、より大きな集合が想定される場合、その大きな集合の中の一部ということになるため「限定」の解釈になると考えられる。以上からカギリの用法は「限界点」→「全量」→「限定」と派生したとみられる。次に、条件解釈のできる例は「ことなるついでなきかぎりは参らず」のようにいずれも連体修飾節を取り、前件が否定に限られるという制限がある。これらはいずれも「期間」の解釈ができるものであり、仮定条件的用法は期間の用法からの派生であると考えられると考察した。 並列形式の概要としては、ヤが中古において引用句で多用されており、引用句を継起として並列形式へと変化したことを実証的に示した。中古から既に名詞句となっている例が見られるため、今後引用句から名詞句への変化を考察する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該課題は、期間延長中の課題であるため、その点で既に進度は計画から遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
中世以降のカギリの用法について調査を進める。特に、カギリの条件解釈には、「否定」が大きく関わっていることがわかったため、「否定」と「限定」との関係、「否定」と条件解釈との関係について考察をし、成果を発表する。また、ギリとの比較をし、限定要素が条件解釈を生じさせる要因について方向性を示す。
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Causes of Carryover |
オンラインでの開催の研究会や学会があったため、交通費を予定よりも使用しなかった。次年度以降は、対面で行われる研究会・学会に参加し、成果発表をすることで交通費を使用する予定である。
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