2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K00641
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
櫻井 豪人 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (60334009)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 洋学資料 / 蘭学 / 辞書 / 単語集 / 編纂方法 / 編纂過程 / 文献学 / 書誌学 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度は、刊本として日本初の意義分類体蘭日対訳単語集である『類聚紅毛語訳』(のち『蛮語箋』と改題、寛政十,1798年序刊)の主な依拠資料となった、宇田川玄随編『西洋医言』(寛政四,1792年序、写本)の本文異同に関する研究を行った。具体的には、先行研究で言及されたことのある早稲田大学図書館洋学文庫蔵本・東京大学総合図書館蔵本・小石秀夫氏蔵本(究理堂文庫本)の三本に加えて、津市図書館稲垣文庫蔵本・武田科学振興財団杏雨書屋蔵本・東京大学医学図書館蔵本の三本を用いて『西洋医言』諸本の校異作業を行い、その異同状況を明らかにした。 その結果、『西洋医言』の諸本は、大規模改訂前の本文と大規模改訂後の本文に分けられ、ほとんどの伝本が大規模改訂後の本文であることが確認されたが、大規模改訂前の本文の姿を留めている稲垣文庫本を利用して分析を行うことにより、ともに宇田川玄随自筆本である早大本および杏雨書屋本に数多く見られる「貼り紙」や「白墨」による本文改訂が、一度ではなく、何度かに分けて施されたものであることが明らかになった。 また、早大本と杏雨書屋本の関係についても、前者が最初から最後まで玄随の手元に置かれて改訂を加えられた本であるのに対し、後者が出版を前提にして書かれた草稿本であることが改めて確認されたが、両者でほぼ共通している改訂箇所は、先に早大本で改訂が施された後、杏雨書屋本に対して同様の改訂が反映された様子が窺えた。さらに、杏雨書屋本の本文は、一部の貼り紙が脱落したことにより、一貫したものになっていないことも確認された。 結局、『西洋医言』の最善本はやはり早大本であるという結論に至ったが、それ以外の伝本がどのような性格を持つのかということも同時に明らかにできた。加えて、『類聚紅毛語訳』の編纂時に用いられた『西洋医言』が、大規模改訂後の本文によっていると見られることも明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は『西洋医言』の本文異同の研究を行ったが、予定通りに遂行した上、論文も執筆し、学術紀要に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
令和二年度は、『類聚紅毛語訳』「服飾」部末尾の色名に関する研究、『類聚紅毛語訳』「草」部および「木」部の編纂方法に関する研究、『改正増補蛮語箋』の「草」部および「木」部の編纂方法に関する研究を中心に行う予定である。また、『波留麻和解』『訳鍵』『増補改正訳鍵』『和蘭字彙』の書誌調査についても徐々に開始し、並行して行う。ただし、新型コロナウィルスの収束状況によっては、大学図書館等での調査が行えないなどの理由により、研究の進捗に影響が出る可能もある。その場合においても、これまでに収集した資料や、在宅で収集可能な資料を用いて、可能な範囲内で研究を進めて行く。
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Causes of Carryover |
複数回の宿泊調査を予定していた杏雨書屋における調査について、事前の調査準備を周到に行ったことと、杏雨書屋側の全面的な調査協力を得たことにより、予定よりも少ない2回の日帰り調査で済んだ。そのため、旅費に余剰が出た。 この余剰分は、『波留麻和解』『訳鍵』『増補改正訳鍵』『和蘭字彙』の書誌調査にかかる旅費と文献複写費に使用する予定であるが、新型コロナウィルスの収束状況によっては書誌調査を延期し、次々年度に繰り越す可能性もある。
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Research Products
(2 results)