2019 Fiscal Year Research-status Report
多言語比較の視点によるキリシタン資料の日本語ローマ字表記の研究
Project/Area Number |
19K00643
|
Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
川口 敦子 三重大学, 人文学部, 教授 (40380810)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | キリシタン資料 / ローマ字 / 多言語 / スペイン系資料 |
Outline of Annual Research Achievements |
16~17世紀の外国人によって書かれた日本語のローマ字表記について、キリシタン資料(版本・手稿類)を中心に、多言語的な視点で資料収集と分析を行った。 布教聖省文書館(バチカン)所蔵の日本関係文書について、平成27年度―令和元年度科研費・基盤研究C(課題番号15K02564)の成果を踏まえて、追加の現地調査を行い、東京大学史料編纂所『日本関係海外史料目録15』(1969)に未記載の日本関係資料であるSC Indie Orientali e Cina Misc. 15の第二文書の日本語表記を分析した。本資料に見られる日本語語彙は少ないものの、他のスペイン系手稿類に見られる、イエズス会系資料とは異なるスペイン語特有の特異な表記が認められた。これはスペイン系キリシタン手稿類に、書き手個人の癖では説明できない、共通の表記意識があったということを示している。 また、キリシタン資料における日本語のカ行表記の変遷に注目した。キリシタン資料ではカ行子音にcまたはqが使用されるのが一般的で、イエズス会士ジョアン・ロドリゲスは『日本小文典』(1620年マカオ)で活用語尾でのkの使用を提唱したが、実際には広まらず、同時代の資料のほとんどが日本語のカ行子音をc, qで表記する。こうした中で、イエズス会士によって1632年にマカオで作成された、ラテン語・日本語・中国語・ベトナム語の対訳の語彙集に、日本語のカ行子音をkで表記するという極めて珍しい例が存在する。イエズス会ローマ文書館で資料収集を行い、表記を精査し、マカオのイエズス会士による他の言語の表記と比較した結果、マカオにおけるイエズス会の言語研究のあり方が影響している可能性を指摘するに至った。この成果は2020年3月に口頭発表で公表する予定だったが、新型コロナウイルスの影響で中止となったため、次年度以降に発表する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
16世紀の日本布教および日本語研究においてイエズス会より後発のスペイン系修道会(フランシスコ会等)の資料を分析し、スペイン系手稿類に共通する特異な表記の例について、材料を補強することができた。また、イエズス会ローマ文書館での現地調査により、日本語を含むローマ字表記の多言語資料に着目し、マカオにおける言語研究の影響関係という新たな視点を得ることができた。これは当初の計画以上の、新しい進展である。 情報発信については、国際学会での口頭発表を応募中である。 今年度の研究成果は、第12回キリシタン語学研究会(2020年3月9日、上智大学で開催予定)で口頭発表する予定であったが、新型コロナウイルス感染防止のため、中止となった。当初予定していた年度内の成果発表はできなくなってしまったが、次年度以降に公表する予定であり、この点を除けば概ね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
2019年度に布教聖省文書館とイエズス会ローマ文書館の現地調査で入手した日本関係資料のローマ字書き日本語表記の分析を進める。アビラ・ヒロン『日本王国記』全体の日本語表記の分析を並行して行う。 マテオ・リッチを中心とする16世紀末~17世紀初頭のマカオにおける中国語研究とローマ字表記法について調査し、イエズス会の日本語のローマ字表記法との関係を考察する。 当初の計画では、次年度にインディアス総合古文書館(スペイン)または布教聖省文書館(バチカン)での現地調査を予定していたが、新型コロナウイルスの影響によって、予定通りに実施できない可能性が極めて高い。今後、情勢を注意深く見極めながら対応していく予定である。
|
Causes of Carryover |
購入を予定していた図書の刊行が2月から3月末以降に延期になったため。また、3月に参加を予定していた研究会(東京)が新型コロナウイルスの影響で中止になったため。 翌年度に、予定していた図書の購入費と、新型コロナウイルスの事態が収束した後に国内学会に参加するための旅費として使用する予定である。
|
Remarks |
川口敦子,「16世紀のヨーロッパ人宣教師が作った日本語の本」,愛知県立大学ミニ公開講座「はじめての外国資料」,2019年
|
Research Products
(1 results)