2019 Fiscal Year Research-status Report
証拠性(evidentiality)から見る日英語比較統語論
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19K00671
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Research Institution | Nagoya Gakuin University |
Principal Investigator |
赤楚 治之 名古屋学院大学, 外国語学部, 教授 (40212401)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 数量詞遊離構文 / 容認可能性 / 証拠性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主目的は、日英語における証拠性と統語構造の関係を明らかにするものである。 2019年度の研究では、日本語における数量詞遊離構文において、証拠性が統語構造にどのような影響を与えるのかについて考察を深めた。日本語文法においては伝統的にアスペクト(相)を示すと考えられてきた「ている」は、証拠性表現でもあるという定延(2006)らの提案に着目し、数量詞構文に見られる判断の揺れを証拠性という観点から分析を試みた。具体的には「ている」などの証拠性表現の付加により主語の統語的位置が変わることで、これまで理由が明らかになってこなかった判断の揺れについて説明を与えた。特に九州方言に見られるが、標準日本語ではあらわれない「が・の」交替に影響を与える証拠性表現は、数量詞構文においても影響を与えるデータを示した。これは証拠性と統語構造の繋がりを示す新しい証拠となった。 本研究の意義のひとつに、生成文法と認知言語学の関係を捉え直し、両者の健全な関係構築の可能性を考えることを挙げている。2019年度は、その下準備として、20世紀前半に活躍した科学的(伝統)文法の大家Jespersenに対するChomskyの解釈を考察することによって、Jespersenの文法観は必ずしもChomsky的な解釈だけでなく、そこには認知言語学(Goldbergらの構文文法)を想起させる考え方が見られることを見ることが出来た。その成果として、2019年9月にエディンバラ大学で開催された「ヘンリースィート協会」で発表を行った。直接的ではないが、生成文法と認知言語学をつなぐための基礎研究として有益なものであると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、英語において統語構造に語順変化が見られる(有標)文を適切な文脈において証拠性の観点から観察し、「証拠性構文」と呼ばれる一連の構文を統語構造の視点から分析し、抽出できる一般化を探ることを目指していたが、実際には、これまで証拠性の観点から論じられてこなかった日本語の数量詞遊離構文を取り上げ、この構文の基本データに観察される文法性・容認性の「揺れ」が絡む可能性を研究した。当初の計画とズレが生じてはいるように見えるかもしれないが、マクロな視点(証拠性構文の統語構造的視点的からの分析であるという意味において)計画から外れているとは言えないと考えている。同時に、2019年度に発表したChomskyによるJespersen解釈の研究も、証拠性の研究自体とは直接関係があるようには見えないかもしれないが、本研究の関連した目的の一つである「生成文法と認知言語学の関係」を探る上で有益な研究であり、今後もこの領域についての研究を継続する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
(認知言語学において)証拠性構文と呼ばれる一連の構文パターンを足掛かりとして、証拠性に関与する統語構造の特性の分析を試みる。それと共に、生成文法と認知言語学との関係を捉え直すために、生成文法の対象(もしくは介入)実体性について考察を深めていきたいと考えている。Chomskyの自然主義(naturalism)とForderらの機能主義における二元論(dualism)を比較し、前者のもつ脆弱性を指摘したAl-Mutairi(2014)を参考にして、自然科学に見られる法則(第三要因)を統語論に組み込んでいる現在のミニマリストが今後も健全な研究成果を出すために、どのような点に着目する必要があるのかについて考察を行っていく予定である。このことを考えることは、今後の生成文法の存在意義を確かめるためばかりか、これまでの研究成果の位置づけを行うためにも必要である。さらに、認知言語学との接点をどこに見出すかについてを考える際にも重要なポイントであると考えられる。
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Causes of Carryover |
証拠性を扱う国際学会に参加する予定をしていたが、Proposalが採用されなかったので、参加を見送った。そのためにその分の予定していた経費(旅費)が未消化となった。
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