2020 Fiscal Year Research-status Report
英語の不定冠詞と関連構文の発達に関する実証的・理論的研究
Project/Area Number |
19K00673
|
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
茨木 正志郎 関西学院大学, 人間福祉学部, 准教授 (30647045)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 冠詞の発達 / 文法化 / 名詞句 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は定冠詞と不定冠詞のコーパス調査を行った。Ibaraki (2011)や茨木(2014)などでは、定冠詞の起源であるといわれる遠隔指示詞seの屈折変化形態に着目して、修飾詞としての指示詞を調査し、定冠詞の出現した時期は14世紀半ばであると主張していた。しかし、先行研究では修飾要素だけを調査の対象としていて、代名詞用法については見てこなかった。代名詞用法を調査することによって、指示詞から定冠詞と指示詞への分化(divergence)の起こった正確な時期を明らかにすることができる。そこで、指示詞の代名詞としての用法を史的コーパスを用いて調査を行い、その結果、修飾要素と代名詞との機能を兼ねた単一の形態が14世紀まで存在することが分かった。さらに、代名詞用法の新しい形態(thatやthoseに相当する)が確立したのは15世紀初頭あることを示し、分化が起こったのは15世紀初頭であることを明らかにした。 また、不定冠詞についてもコーパス調査を行った。不定冠詞も定冠詞同様に分化の文法化プロセスを経て発達したといわれている(Hopper and Traugott (2003))。すなわち、古英語の数詞anからある時期に冠詞としての用法が分岐して生まれ、数詞の用法もそのまま現代まで残った。コーパス調査より、数詞の新しい形態a(n)は決定詞と共起できないこと、また代名詞用法を持たないことが明らかになった。この事実は、形態a(n)の出現が英語の不定冠詞の出現を示唆している。a(n)は13世紀に出現しているが、異形態間の割合は約50%程度であった。15世紀初期に約86%まで割合が高まっており、この時期は定冠詞の発達した時期と一致している。 これらの研究成果の一部は日本英文学会関西支部第15回大会シンポジウムにて報告された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルスの影響により予定していた出張を取りやめたため、進捗に遅れがでた。今年度の後半は遠隔会議システムを利用するなどして、研究打ち合わせを行うことができたが、それでも当初の予定通りには進めることができなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後もしばらく出張や対面での打ち合わせが難しい状況が続くが、遠隔会議システムや電子メール等を利用して研究協力者と意見交換を行う。昨年度は学会・研究会の多くが延期や中止になってしまい、予定していた発表ができず意見交換する機会があまりなかったが、次第に学会・研究会はオンラインで開催されるようになってきているので、今年度は積極的に研究発表を行い、これまでコーパスより収集した不定冠詞に関するデータを開示し、フロアとの意見交換を通じて不定冠詞と不定冠詞関連構文の発達過程の分析の精緻化を図りたい。
|
Causes of Carryover |
新型コロナの影響で予定していた出張に行くことができずに次年度使用額が生じた。しばらくこの状況が続きそうなので、当初旅費に充てる予定だった予算は、消耗図書に約15万程度、備品に5万程度、校閲費5万程度、人件費5万程度を充てる。また、研究期間を当初の3年から4年に延ばすことも検討中である。
|