2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K00677
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Research Institution | Asahikawa National College of Technology |
Principal Investigator |
水野 優子 旭川工業高等専門学校, 一般人文科, 准教授 (90435397)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 複文 / 接続詞 / 談話標識 / コーパス / 譲歩 / 文法化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、(1)電子コーパスから話し言葉に現れるthough節を収集し、独立節として用いられているthough節の談話機能を明らかにすること、(2)独立節として用いられている以外のthough節の話し言葉における談話機能についても記述し、独立用法も含めた個々の用法間の関係性を明らかにすること、(3)独立節として使われているthough節が談話標識として分析できるか検討すること、および(4)書き言葉におけるthough節の談話機能と話し言葉におけるthough節の談話機能の共通点と相違点を明らかにすることである。 2019年度には、研究実施計画に基づき、上記の(1)と(3)について研究を行った。まず、電子コーパスThe Corpus of Contemporary American English (COCA)の1990年から2017年に収録された話し言葉セクションから、合計で89件の独立though節を収集した。そしてその談話機能を分析し、次の5点を明らかにした。(1)収集した独立though節は、対話の中で用いられる場合と、ナレーターの発話の中で用いられる場合の2つに大きく分けられる。(2) though節が対話で用いられる場合は、先行する同一話者の発話を受ける場合と、聞き手の発話を受ける場合に二分できる。このうち、同一話者の発話を受ける場合は「訂正譲歩」の機能を持ち、聞き手の発話を受ける場合は「訂正譲歩」と「不賛成」の2つの機能を持つ。(3) though節がテレビやラジオのナレーターの発話で用いられる場合は、「訂正譲歩」と「新情報の追加」という2つの機能を持つ。(4) 独立節を導く話順の最初に現れるthoughは、談話標識として分析できる。(5)独立though節は、文法化の節接続に関する単方向性の仮説の反例となる。 以上の研究成果について、2019年11月30日に北海道大学で開催された日本英文学会北海道支部第64回大会において研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度には、本研究の四つの目的の内、次の二つに取り組んだ。 (1)電子コーパスから話し言葉に現れるthough節を収集し、独立節として用いられているthough節の談話機能を明らかにする。 (2)独立節として使われているthough節が談話標識として分析できるかを検討する。 研究実施計画では、2019年度に上記の一つ目の目的に取り組み、二つ目の目的は2021年度に取り組む予定だったので、2019年度の内にどちらの目的にも着手できたという点においては、当初の計画以上に進展していると言える。一方、一つ目の目的に関しては、達成できた部分とやり残した部分があった。達成できたこととしては、独立though節が談話内で果たす機能を実例に基づいて明らかにすることができた。他方、やり残したこととしては、計画では独立though節の個別の用法の頻度についても明らかにする予定であったが、使用した電子コーパスThe Corpus of Contemporary American Englishの話し言葉セクションから収集した独立though節の数が予想以上に少なかったこともあり、独立though節の個別の用法の頻度を明らかにすることができなかった。 まとめると、2019年度に予定していた目的は一部を残して達成することができ、さらに2021年度に予定していた計画にも着手することができたため、全体としてはおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、話し言葉における独立though節の実例を電子コーパスからさらに収集してデータを増やし、2019年度に明らかにした個別の用法、すなわち「訂正譲歩」、「不賛成」、「新情報の追加」の頻度を明らかにする。さらに、話し言葉において①though節が主節に対して前置される場合、②though節が主節に対して後置される場合の談話機能を明らかにする。その際、研究代表者がMizuno(2011)で提案した書き言葉におけるthough節の分類を用いることにする。Mizuno(2011)では、書き言葉で用いられるthough節には「標準譲歩」、「修辞譲歩」、「訂正譲歩」、「発話行為」、「対比」の五つの用法があることを示した。本研究では、話し言葉におけるthough節の用法と書き言葉におけるthough節の用法を比較し、①共有の用法、②書き言葉にしかない用法、③話し言葉にしかない用法を明らかにする。さらに、なぜ違いがあるのかに関して考察を行う。 2021年度には、though節が主節を伴わずに独立して用いられる場合、though節を談話標識として分析できるか否かを検討する。2019年度にすでにthough節が談話標識として分析できることを示すいくつかの証拠を提示したが、さらにこの分析を進めていく。談話標識はこれまで多くの先行研究によって扱われ、研究者によって定義も様々であるため、まずは先行研究を整理し、より多くの研究者によって提案されている特徴を基に、本研究における談話標識の定義を行う。そして、話し言葉におけるthough節の個々の用法間の関係性を明らかにする。具体的には、though節の様々な用法を、より従属的なものからより独立した節(主節)への連続体(従位接続詞>等位接続詞>談話標識)に位置付けることによって、各用法間の関係性を明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
2020年3月21日から3月26日にかけて、3月23日、24日にフランスのルーアン大学で開催される国際学会「Third International Conference on Grammaticalization theory and data」に出席するためフランスへの出張を計画していたが、日本国内、およびヨーロッパのおける新型コロナウイルス感染拡大の影響のため出張を中止した。予定していた旅費276,120円から航空券のキャンセル料188,250円を差し引いた額は87,870円であったが、出張中止を決めたのが3月上旬であり、旅費以外の使用計画を立てる時間的余裕がなかったため、次年度に繰り越すこととなった。また、2月に発注した図書一冊の入荷が4月となっため、その分の5,220円についても次年度に繰越すことになった。 次年度使用額93,090円と翌年度分として請求した助成金1,000,000円を合わせた使用計画は、物品費:643,090円、旅費:350,000円、謝金:50,000円、その他:50,000円とする。
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