2019 Fiscal Year Research-status Report
Ideophoneと言語進化に関する日英対照を中心にした語用論・類型論的研究
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19K00681
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
金谷 優 筑波大学, 人文社会系, 助教 (50547908)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ideophone / 構文 / マルチモダリティー / ジェスチャー |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は2件の国際学会発表と1件の国内学会発表を行った。 1件目は、"So Many Ideophones in Japanese but Less So in English: A Three-Tier Model Account"というタイトルのポスター発表を第15回国際認知言語学会(於:関西学院大学・西宮)で行った。日本語にはideophoneが多様に存在する一方、英語にはそれほど多くない事実について、言語使用の三層モデルという語用論的類型論に基づく説明を行い、当該分野の専門家と非常に活発な議論を行うことができた。 2件目は、"Toward a Multimodal CxG Analysis of Japanese Mimetic Expressions"というタイトルの口頭発表をヨーロッパ言語学会第52回年次大会(於:ライプツィヒ大学・ドイツ)で行った。実験に基づいて、日本語の擬情語(イライラ、がっかり、など)と共起するジェスチャーは、内在化した概念メタファーに基づく身体の動きであることを論じ、ジェスチャーも言語式の一部を形成する可能性を示唆した。有意義な議論を行うとともに、multimodal construction grammar(多覚的構文文法)の分野の研究者と人的ネットワークを形成できた。特に本発表は、今後の研究の発展に資する点でも有意義である。今後は、言語知識としてのジェスチャーの可能性について、さらに記述を精緻化するとともに、具体的に論証していく。 3件目は、「言語知識としての構文ネットワーク:because構文を例に」というタイトルで日本英語学会第37回大会(於:関西学院大学・西宮)で発表した。2件目の発表と同様、構文文法理論における言語知識の在り様を論じるうえで重要な研究である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、日英語の ideophone を語用論的類型論(言語使用の三層モデル(Hirose (2015) English Linguistics 32(1).))の観点から分析することで、言語機能の進化の過程を解明するというものである。具体的には、「言語はジェスチャーなどの身振りから発現し、ideophone は言語とその前駆体としてのジェスチャーの橋渡し的な要素である」という仮説に基づき、言語進化の過程と類型論的変異の出現の解明に資するような形で ideophone の分析を行うことを目的としている。本研究では、研究期間を通じて、①言語の私的・公的自己中心性と ideophone の多寡はどう関係するのか、②古英語と現代英語では ideophone の多寡はどのように変わったのか、③言語はどのように進化したのか、の三点を明らかにしようとしている。 このうち、初年度は①に焦点を当てて研究を行った。「言語の私的・公的自己中心性」は、英語は公的自己中心の言語であり、日本語は私的自己中心の言語であるという三層モデルの中核をなすパラメターである。英語が公的言語中心言語であることと ideophone が少ないことに相関があり、日本語が私的言語中心言語であることと ideophone が豊富であることに相関がある点をまとめ発表した。さらに、言語とジェスチャーの関係に関する新たな課題も発掘され、当初計画のとおり、順調に進捗しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目は、以下の二点の課題に絞って調査を進めていく。一点目は、昨年度の研究の追調査である。ジェスチャーが言語知識の一部を占めている可能性を示唆する研究成果を発表したが、さらにその記述を精緻化するとともに、具体的に論証していく。主に構文文法理論に基づく理論的研究(言語知識の中にどのように表示すべきか)と、実験調査による実証的研究を並行して行う。実証的研究の手法としては、音声情報を与えずにジェスチャーだけから言語情報を復元することができるかを調査する。 二点目は、いわば縦軸方向に研究を広げていくことである。初年度は、言語使用の三層モデルの観点から、日本語と英語を対照する共時的・通言語的な(いわば横軸方向の)調査を行ってきた。古英語期 は同義複合語の生産性が現在より高く(Benczes (2012) Australian J. or Linguistics 32(3).)、その中には ideophone の一種とされる jibber-jabber のような押韻複合語が含まれる。コーパスを用いて古英語期の押韻複合語のデータを収集し、現代英語と比較しながら分析する。 当初の研究計画では、横軸方向の研究を広げるべく、多言語(英語に近いヨーロッパ系言語や日本語に近い韓国語など)の ideophone 調査も計画していたが、「言語知識の一部としてのジェスチャー」という新たな課題が生じたため、まずそちらを解決すべく、軌道修正を行い、以上の二点に絞って研究を行う。特に縦軸方向の研究を進める際は、1年目の研究成果と関連付けられるよう、現代英語と古英語・中英語の公的自己中心性・私的自己中心性に着目して研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
研究方針の軌道修正に伴い、当初類型論の研究のために購入を計画していた多言語翻訳本の購入を取りやめたり、物品費や旅費が当初概算額の間に若干の差額が生じたりしたため。
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