2020 Fiscal Year Research-status Report
Aelfric's Grammarの11世紀写本間言語変異の研究
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19K00691
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
市川 誠 東京理科大学, 北海道・長万部キャンパス教養部, 講師 (60625747)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アルフリッチ / 古英語 / 写本 / 方言 / 写字生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的であるAelfricのGrammar11世紀の写本毎の言語データベースを作成するため、令和2年度はインターネット上で閲覧できるデジタル画像と研究代表者が所有するマイクロフィッシュ画像から写本テキストを転写した。テキスト転写を完了した写本は以下の通りである。(1) London, British Library, Cotton Julius A.ii (2) British Library, Harley 5951 fol.8-9 (3) British Library, Royal 12 G.xii (4) Oxford, All Souls College 38 (5) Paris, Bbbliotheque Nationale, anglais 67 (6) Bloomington, Indiana, Lilly Library, Additional 1000。上記の写本のうち、Cotton Julius A.ii写本の言語を調査し、その研究結果を「アルフリッチの『文法』Julius A.ii写本の言語」のタイトルで本務校の紀要に投稿し、論文は令和3年3月に公刊された。また、令和元年度に調査したBritish Library, Harley 107写本の言語についての論文を寄稿した菊池清明、岡本広毅(編)『中世英語英文学研究の多様性とその展望 -吉野利弘先生、山内一芳先生喜寿記念論文集』が令和2年12月に出版された。Gneuss (1997:47-8)によれば、Harley 107写本とJulius A.ii写本はともに「南東部方言の綴りが多かれ少なかれ頻繁に現れる」『文法』の写本である。2つの写本を調査した結果、確かに南東部方言の要素として見なされる言語要素が含まれているが、現れる要素は2つの写本間で異なることが分かった。例えば、Harley107写本に見られる綴りeoの代わりのioの綴りはJulius A.ii写本には観察されず、他方、Julius A.ii写本にあるウエストサクソン方言のeに対するaの綴りはHarley107写本では見られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度は6つの写本からテキストを転写したが、そのうちの5つは断片の写本である。テキストの分量は少なく、顕著な方言要素は観察されなかった。また、昨年度の推進方策で、British Library, Cotton Julius A.ii写本と共にDurham, Cathedral Library B.III.32の言語調査を行うと述べたが、Julius A.ii写本のテキスト転写と調査に集中したため、昨年度、調査ができない結果となった。Durham写本については今年度、調査をして論文にまとめる予定である。新型コロナウィルスの蔓延状況に改善が見られないため、令和2年度も現地調査を実施できなかったこと、そして、写本からのテキスト転写と調査が比較的低調であったという点から「やや遅れている」という評価をした。
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Strategy for Future Research Activity |
前述のGneussやKeffee (2007:59) はDurham, Cathedral Library B.III.32写本を南東部方言の要素を含む写本であると述べているが、研究代表者が知る限り『文法』の言語で具体的にどのような方言要素が現れるかは不明である。カンタベリーとの関連が指摘されるDurham写本の言語を調査することで、すでに調査済みのHarley 107写本やJulius A.ii写本と共に、カンタベリーを含む南東部地域での『文法』の受容の一端が明らかになることが期待される。令和3年度はDurham写本の言語調査に集中し、論文を執筆する予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度、旅費の執行が難しい場合は文献調査などによる研究方法の可能性を探ると記した。実際、今年度も旅費の執行ができなかったため、その代わりとし『文法』を取り巻く当時の知的環境と写本間言語変異に関する図書を購入し、文献調査に備えた。研究最終年度である2021年度も現地調査が実施できるか不透明であるため、研究期間を1年延長することを検討している。
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