2022 Fiscal Year Research-status Report
言語変化を加速した言語接触の歴史社会言語学的研究:印刷揺籃期の翻訳英語を対象に
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19K00696
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
内田 充美 関西学院大学, 社会学部, 教授 (70347475)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
家入 葉子 京都大学, 文学研究科, 教授 (20264830)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 歴史社会言語学 / 言語接触 / 翻訳 / 言語変化 / 多言語 / 綴り字 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は (i) 言語接触の直接的影響の有無が予測できる文献の詳細な分析 (ii) 言語接触による影響が認められると予測される資料(原典と翻訳)を幅広い情報源に基づいて掘り起こす (iii) 翻訳元テキスト(原典)の同定についての先行研究の探索,の組み合わせによって進めてきた.最初期印刷本の研究にあたっては (ii) (iii) の作業に膨大な労力が必要となる.2022年度には,新たなる資料の掘り起こし作業はいったん停止し,これまでに(ii) (iii) が一定程度進んだ文献についての分析に注力した.具体的には,William Caxton (England) が,フランス語から英語に翻訳したとされるテキスト Paris and Vienne について,すこし時代の下がる印刷者 Gerard Leeu (Antwerp) による別の英語版と,先行研究によって翻訳の原典,あるいは非常に近いとされてきたフランス語のテキスト(フランス国立図書館所蔵の写本とLyonsの印刷者による複数の刊本)との照合を行い,Caxtonの綴りがどういう要因によって「揺れ」を見せているのかを詳細に検討した.その結果を英文論文としてまとめ,Kwansei Gakuin University School of Sociology Journal に共著論文として公刊した.これは,前年度に国際学術雑誌English Studiesに採択された論文の続編と位置づけられる研究成果であるが,ほぼ同じ時代・同じ地域の印刷者による同じテキストの刊本であっても,綴りの選択には大きな差異が認められること,また,CaxtonとLeeuの英語の綴りはフランス語の綴りよりも大きな揺れを見せていることの一端を実証的に示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度の前半,予定通り海外出張を伴う調査研究から課題を開始することができたが,同年度後半に,研究代表者の学内業務が尋常でないレベルの緊張と集中を強いたため,当初予定したような課題の進行が不可能となった.2020年度から2022年度までは,疫病の蔓延のため,当初予定していた英国・欧州におけるワークショップ等への参加,英国・フランスなどの図書館等での調査が実行できなかった.研究上のやりとりをしている図書館の希少図書担当部署などにおいても,リモート業務からの復帰にいまだに手間取っている状況にあり,従来のような速度で返信はもらえていない.教務,特に授業運営のための調整・準備業務に労力を取られたこともあり,依然,研究全体の遅れを取り戻すには至っていない.
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Strategy for Future Research Activity |
本課題では,これまでに,William Caxtonの翻訳英語について,言語接触の観点から,借入語,語源的綴りについての検討,類型論的立場の理論を参照して移動表現についての分析を行い,成果を発表してきた.オランダ語から翻訳されたテキストと,フランス語から翻訳されたテキスト,Caxton自身によるテキストとの比較検討も行ってきた.今年度は,William Caxtonが,フランス語から英語に翻訳したとされるテキストについて,時代の下がる印刷者による別の英語版と,先行研究によって翻訳の原典,あるいは非常に近いとされてきたフランス語のテキスト(写本と複数の刊本)との照合を行いながら,主に語法と文法の側面での調査と分析を進めていく.具体的には,英語の所有表現,助動詞,修飾構造などの現象について,英語史の大きな流れを踏まえたうえで,Caxtonの翻訳英語の特徴(使用の揺れがあるのかどうか,どのような揺れがあるのか)を明らかにすることを目指す.いずれの文法現象も,フランス語との対応関係は比較的特定しやすいものではあるが,用例はすべて文脈を読み込んで手作業で仕分ける必要があり,さらに画像で判断する資料の文字が難読であることから,時間と手間のかかる分析となることが予測される.分析の終わったものから,英語論文にまとめて成果を発表していく.
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Causes of Carryover |
2020年度から2022年度に予定していた海外出張および海外での資料収集が予定通りに実現しなかったことにより,次年度使用額が生じた.国際的な移動や学会開催をめぐる状況,また,海外の図書館等の業務がリモートから通常に戻っていく状況を見極めながら,学会・研究会などへの対面参加を目指すとともに,出張を伴わない方法での情報・資料の収集も視野に入れ,適切に執行していく予定である.すでに,オンラインによる代替手段も取り入れているが,全体の計画の遅れも踏まえ,研究期間の延長をも視野に入れつつ,最大限に有効な執行を目指していく.
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