2019 Fiscal Year Research-status Report
Longitudinal Study in Japanese Pronunciation of Russian Native Speakers
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19K00701
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
小熊 利江 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 基幹研究院研究員 (00448838)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 第二言語習得 / 日本語教育 / 音声 / 発音指導 / ロシア語母語話者 / 縦断研究 / 質的研究 / 自然発話スタイル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ロシア語母語話者による日本語音声について縦断研究を行い、習得過程および習得上の難易について明らかにする。学習者の発話音声データを用いて、実証的に分析を行う新規の研究分野である。日本語音声の習得過程について、母語がロシア語という言語個別的な特徴および言語普遍的な特徴を明らかにすることによって、発音指導教材の開発や第二言語習得論の構築にも貢献できる。 これまで、モスクワの大学で日本語を学習するロシア語母語話者52人の音声分析を行い、日本語音声習得の特徴に関する研究成果をまとめている。本研究では、毎年継続的に同一被験者に対するデータ収集と分析を行い、横断研究から明らかになった点について学習者の実際にたどる習得過程と対照しながら検討していく。 令和元年には10月末から1週間程モスクワに出張し、ロシア語母語話者の日本語の発話音声データを収集した。ロシアに入国するにはビザの取得が必要で、事前にロシア側の研究協力者や被験者と日程などの調整を入念に行った。収集する発話音声データの内容は、①4コマ漫画のストーリーテリング、②半構造化インタビュー、③ロールプレイの3種類であり、それとともに被験者は日本語能力測定テストを受ける。調査には1人あたり約3,4時間かかった。 モスクワでの調査の当日、被験者が体調を崩すなど予期せぬ事態が発生し、予定していた被験者の協力が得られなかった。出張は延長できず結果的に4人の発話音声データが採取できたが、このことはロシアにおける調査、および同一学習者を長期にわたり縦断的に調査することの難しさを示している。しかしながら、ロシア語母語話者を対象とした同一学習者の縦断的な音声データ自体が非常に希少なものであり、学術的な価値が高いと考えられる。次年度は、本年度に調査を行えなかった被験者についてもデータ収集を継続していくつもりである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、ロシア語母語話者による日本語音声の習得状況、および習得上の困難点や難易について明らかにすることを目的としている。第二言語習得研究において、学習者が実際にどのような習得過程をたどるのかを明らかにするためには、日本語能力レベル別に量的に分析する横断研究による予測だけでなく、個々の学習者を継続的に観察する縦断研究によって検証することが必要である。また音声習得研究においては、学習者の自然発話スタイルの音声を分析することが最適であると言われているため、本研究では自然発話スタイルの音声データを収集し分析している。 縦断研究の一環として、令和元年10月26日から11月3日にかけてモスクワに出張し、ロシア語母語話者を対象とする日本語の発話音声データの収集を行った。調査前に、対象となる全ての被験者に協力を求めたが、既に大学を卒業している被験者が多く、連絡を取ることが難しかった。本年度の調査に協力する予定の被験者は6人であったが、調査当日に体調を崩した被験者がおり、最終的に4人の発話データの収集を行った。このことは、同一学習者を長期にわたり縦断的に観察することの難しさを示すものと言える。 しかしながら、縦断研究の開始から既に6年半が経過していることを考慮すると、ロシアにおける4人という被験者数は音声分野の縦断研究の対象者としては貴重である。したがって、研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度には引き続き、モスクワに出張して同一のロシア語母語話者に対する日本語の発話音声データの収集、収集した音声データの文字化、および音声データの分析を行う計画である。ただ現在、モスクワは新型コロナウィルスの感染地域であり、終息時期が不明である。ロシア入国にはビザの申請が必要なため、事前に現地の研究協力者や被験者と段取りや日程等の調整を行わなければならず、出張スケジュールが決めにくい状況である。尚、現在ロシアでは外国人の入国ビザの申請が受け付けられていない。本年度の発話音声データの収集が可能かどうかは不明であるが、調査に適切な時期を見極めながら準備を進める。もし本年度、モスクワにおける発話音声データ収集ができなかった場合は、次年度に同様のデータ収集を計画する。 また、既に収集された音声データの分析も同時並行して行う。音声分析の具体的な作業として、まず音響分析ソフトを用いて音声データを編集し、日本語母語話者による聴覚的な評価を行う。聴覚評価は、編集された音声データを聞き、音声的な自然さ・不自然さを評定するという方法を採る。 研究の成果については、明らかになった結果から随時、学会等にて報告していくことにする。発表する学会として、日本国内の他、ロシアの日本語教育界に研究成果を還元するためモスクワの国際会議などを想定している。また、第二言語の音声習得研究に貢献するため、様々な母語の日本語学習者の研究が進むヨーロッパや北米においても研究発表を行う予定である。
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Causes of Carryover |
為替レートの変動により、海外出張費が見積り額より少ない金額になった。海外の学会費なども外貨にて支払うため、為替レートの変動によって実際に支払った額が見積り額より少なかった。また本年度、調査に協力する被験者が予定より減ったため、謝金として計上していた額も次年度使用額となった。 次年度使用額は、今後の為替レートの変動の備えなどとする。
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