2022 Fiscal Year Research-status Report
アカデミック・ライティングにおける適切な間接引用指導のための調査・研究
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19K00731
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
向井 留実子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 名誉教授 (90309716)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近藤 裕子 山梨学院大学, 学習・教育開発センター, 准教授 (70734507)
中村 かおり 拓殖大学, 外国語学部, 准教授 (70774090)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 引用指導 / 引用形態 / 典型的な引用表現 / 分野による違い / アカデミック・ライティング |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の主な成果は次の4点である。1)典型的引用表現の使用環境の解明:引用指導において出典を示す典型的な表現とされる「-によれば」「-によると」について、昨年度の成果を発展させ、文系7分野(法学、社会学、教育学、哲学、経営学、経済学、政治学)の35学術論文中の使用傾向と両表現に前接する出典の特徴等を明らかにした。両表現ともに、論文によって使用数の差が大きく、その差は分野の違いよりも論述の方法に関係していることが示唆された。また、両表現間で前接する出典の特徴が異なる傾向が見られ、「-によれば」については、その表現が出現する前に、出典への言及がなされていると、後続内容が引用した内容ではなく、筆者の解釈が示される場合があることが明らかになった。2)引用形態使用の分野による違いの解明:昨年度の5分野のアカデミック・ライティングの教本調査で、引用形態の扱いに分野による違いが見られたため、本年度は、実際の引用使用で分野間の違いがあるのかを明確にする調査を、論文執筆の経験がある、日本語教育学および文学を専門とする教員を対象として行った。その結果、分野間で引用形態選択の意図に違いがあることが明らかになった。3)引用文の形態分類:これまでの調査を通して、学習者の適切な引用使用が促進されないのは、引用指導が直接・間接という引用方法の説明にとどまり、それらの方法を文章中で用いたときに生成される多様な引用文の形態についての説明がないためであるという認識に至った。そこで、本年度は、引用指導の手がかりとなるような引用文の形態分類の試案を提案した。4)アカデミック・ライティングにおける引用指導の位置付けやあり方の再考:アカデミック・ライティングと引用指導の専門家を3名招き、座談会を開いて意見交換を行なった。そこでは、初年次の指導と専門での指導との接続の必要性、段階的な引用指導のあり方などが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで行ってきた初年次の日本人学生と日本語力の高い大学院留学生を対象とした引用理解の調査結果を論考にまとめるなど、成果を形にすることできた。また、昨年度末に本年度の目標としていた、引用形態・表現の文章中での役割と表現間の違い、分野によって異なる引用形態の使用傾向の解明についても、一定の成果が得られ、発表を行うことができた。これらの成果は本研究が当初目指した「間接引用」の使用を包括的に説明するにあたって、貴重な手がかりとなるものである。 さらに、本年度は、引用指導を効果的に学習者の理解や引用使用につなげるためには、次の2つの視点で引用形態の行う調査が必要であるとの認識を持ち、研究を進めた。ひとつは、引用を引用文の形態から捉える視点、もうひとつは、アカデミック・ライティングの指導段階、すなわち初学者の段階から専門の段階の指導に関連づける視点で、これらは、研究開始当初はなかったものである。 以上のことから、本年度の研究成果は来年度の新たな展開につながるものとなっており、当初の計画以上に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の予定は以下のとおりである。 1)典型的引用表現の使用環境調査を分野を追加して実施:これまでに行ってきた文系7分野の学術論文の引用形態に関わる量的質的調査に、さらに5分野(心理学、史学、文学、言語学、地域研究)を加えた調査を行い、その結果を分析して論考にまとめる。 2)分野による引用形態使用の違いの精緻化:分野によって異なる引用形態の使用実態について、本年度は2分野の比較を行ったが、文学の引用形態使用は、資史料を分析する研究が中心になるという分野の特徴との関連が大きいことが示唆されたため、来年度は文学に焦点を絞って、継続的に調査を行う。その結果から文学の分野における引用形態使用の傾向を明らかにする。 3)引用文の形態分類:本年度試案を提示したものをさらに精査して、検討を進める。 4)引用使用の実態調査の結果発表:本年度、初年次の学生を対象として引用の困難点、特に出典からの情報を複数文で引用する場合についての調査を行ったが、その結果を国際学会で発表する。
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Causes of Carryover |
本年度は、2022年8月に韓国で行われる東アジア日本語教育・日本文化研究に現地参加して発表する予定で予算を確保していたが、コロナ禍の影響を受けてオンラインのみとなってしまったため、消化することができなかった。2023年度は「豪州日本研究学会研究大会・国際繁生語大会~ポストコロナを生きる~」での発表が採択されており、研究代表者と分担者2名で現地に赴く費用に充てる予定である。
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