2019 Fiscal Year Research-status Report
Description of the history of Japanese language teaching in Russia and Central Eastern Europe:focusing on the changes from the socialist era
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19K00735
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
小川 誉子美 横浜国立大学, 国際戦略推進機構, 教授 (50251773)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 日本語研究 / ロシア・中東欧 / 口述資料 / 社会主義時代 / 現代史 / 体制変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
諸外国における日本語人材の育成は、当該国の東洋学の伝統とともに、対日政策のもとで行われてきた。社会主義時代の旧ソ連や東欧圏では、とりわけ日本語・日本研究は高い水準にあったが、その実態については断片的にしか知られていない。本研究は、こうした状況を補うべく、社会主義時代から冷戦の終結を経て現在にいたるまでの当地域の日本語教育の変遷を記述するものである。具体的には、日本語教育にかかわってきた人々が社会主義時代 の日本語教育や日本研究をどのように振り返り、日本語教育の意義や実態が体制とどのように関わっているかという「問い」を軸に、 1)第二次世界大戦後のロシア・中東欧地域の日本語教育に関する文献及び口述資料を収集し、2)上記の文献と口述資料を分析し、社会主義時代を経て現在に至る、ロシア・中東欧地域の日本語教育現代史を記述していく。 初年度は、主として、上記1)の文献と口述資料の収集を行った。後者に関しては、社会主義時代に教師や学習者の立場にあった人々を対象にインタヴュー調査を実施した。内容は、当時の日本語教育の実態について、学習者、教師、教育内容、社会環境の各側面から、時代の変遷とともにどのように認識されているのかについて尋ねた。調査協力者は、旧ソヴィエト、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、チェコ、旧ユーゴスラヴィアの1950年代から80年代までに日本語教育に関わった人々(日本政府による叙勲受賞者を含む)であり、半構造化インタヴュー、デプスインタヴュー などの手法を用いた。特に社会主義時代の旧ソ連では、民主化後と比べ、学術研究に割り当てられる資金も潤沢であり研究者も多かった。政治体制の異なる日本とは交流の機会も限られていた中、日本語人材はどのように育成されたのか、教育体制、社会環境の側面から重要な示唆を得た。各地の共通点とともに、地域固有の特徴が徐々に明らかになってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、ベオグラード大学、ブタペスト商科大学、ウィーン大学を訪問し、口頭発表と口述調査を行った。この訪問により、ネットワークが広がり、旧ソ連、ルーマニア、ハンガリー、旧ユーゴ(今回は現在のセルビアとスロベニア)、旧チェコ・スロヴァキアの関係者から協力を得ることができた。対面インタヴュー、オンラインインタヴューに協力いただいたのは、体制返還以前から日本語教育に関わってきた日本語研究者、日本語教育の実践者である。旧東欧圏の日本研究者の中には、その貢献に対し日本政府からの叙勲受章者となった学者や教育者がいる。今回のインタヴューでは、叙勲受賞者からも協力を得ることができた。今回の調査では、1950~60年代のモスクワでの日本語学習の実態や卒業後の活動、ルーマニア革命前の日本語を含む東洋語学習事情、70年代以降のハンガリーの日本語教育の変遷に関する重要な情報が提供された。 政治と学問が不可分であった時代の東洋語研究については、当時の特徴や具体的な成果について、当事者たちの手である程度発表されているが、今回の調査では、その過程については、多くの情報が提供された。なかでも、現地の日本人社会との関わりや草の根交流が大きな推進力となっていたという点は、重要である。政治体制も異なり、日本との接触が限られ、日本からの講師の派遣も限られていた時代、当地に滞在した日本人の役割は決して小さなものではなかった。 1946年以降、特に50年代から80年代にかけての半世紀足らずの間、交流の乏しかった時代に活躍した日本語学者や通訳ら日本語人材がこれまで注目されることはなかった。社会主義体制崩壊から約30年の年月を経、当時の教員のほとんどが現場を去った。さらに1950年代までさかのぼり、当時の記録を残すことは今後ますます困難となろう。本調査は現在喫緊の課題となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
感染症が収束する見通しが立たない中、2020年5月の時点で、口頭発表を予定していた海外の学会がすべて中止、来年度への延期という運びとなった。渡航の際に訪問を予定していた各地の史料館での資料収集、海外でのインタヴューの機会が失われてしまったことになる。したがって、2020年度は、1)文献資料の収集、分析 2)2019年に協力いただいた対象者への第二回目の口述調査(オンラインを含む) 3)新規の協力者への口述調査(オンラインを含む)4)旧ソ連時代に日本語を学び、CIS諸国(中央アジアやコーカサス諸国など)で日本語教育に携わっている方への調査の可能性を探る。以上の4点を主な作業とし、国際的な場での発表は見送り、資料の収集と分析に注力していく。 今年度は、社会主義時代の教材や教授法、日本語人材としての任務、東洋学のパラダイムの変遷にも注目し、学習者の内面から各国の対日交流に至る、日本語学習を取り巻く環境について総括していきたい。その結果は、2021年度に予定している、冷戦の終結後の展開に関する分析につなげていく予定である。
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Research Products
(9 results)