2019 Fiscal Year Research-status Report
日本手話のプロソディー(韻律)要素の性質とその習得:手話学習者のストラテジー
Project/Area Number |
19K00779
|
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
下谷 奈津子 関西学院大学, 産業研究所, 助教 (20783731)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松岡 和美 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (30327671)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 日本手話 / プロソディー / 第二言語習得 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本手話のプロソディー(韻律)の性質を明らかにしたうえで、日本手話学習者によるプロソディーの習得状況を調査することを目的としている。 現在の日本手話言語研究において、日本手話のプロソディーについてはほとんど明らかにされておらず、それゆえ日本手話の指導や学習の際に参照できる解説書が全くない状況にある。 そこで、本研究では、まず日本手話の語りのデータを記述・分析し、その後アメリカ手話や香港手話など、諸外国の手話言語のデータと比較しながら、日本手話におけるプロソディーの特性を明らかにしていく。 そのために、まずは日本手話の語りのデータ収集を始めた。ろうの親を持ち、出生時から日本手話を母語として獲得してきた、デフファミリーのろう者(以下、ネイティブサイナー)を対象とし、約6分の無声動画を見せてそのストーリーを日本手話で表してもらった。 これまで、計6名のネイティブサイナーからデータを収集し、現在言語分析ツールであるELANを用い、手話表出の記述を行なっているところである。手指表現については順調に記述はできているものの、非手指表現(例:頭の動きなど)については分析が容易ではなく、引き続き記述方法において検討が必要である。 更に、海外で同領域の研究者と会合を持ち、プロソディー研究について情報交換を行なうことができたが、データ収集に用いる題材について改善の余地があることが伺えた。今後も引き続きネイティブサイナーからデータを収集する予定であるが、データ収集の手法を改めて見直し、改善を試みる予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、計10名のネイティブサイナーからデータを収集し、さらに別の10名のネイティブサイナーを対象に、手話の語りの中で区や節の切れ目を判別する「データ判別タスク」を行なう予定であったが、昨今の非常事態により、協力者との対面が叶わない状況が続いており、進捗はやや遅れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
まずは、データ協力者との対面が可能になり次第、データ収集を再開する。 その際、データ収集の手法を再度検討し、必要に応じて用いる題材の変更も視野に入れる。その後、10名のネイティブサイナーを対象に「データ判別タスク」を行ない、区や節の切れ目を抽出し、その箇所に現れる要素(手指要素および、非手指要素)のコーディングを行なう。 それと並行して、アメリカ手話および香港手話に関して、同様にネイティブサイナーからデータを収集し、日本手話との比較分析を行なう。具体的には、それぞれのプロソディック要素やそれらの出現頻度などを観察し、日本手話と比較しながら、日本手話におけるプロソディーの特性を明らかにしていく。 それに引き続き、成人聴者の日本手話学習者計20名を対象に、日本手話の語りのデータを収集する。その後、ELANを用いて表出を記述し、ネイティブサイナーの表出データと比較しながら、習得が容易な項目と困難な項目を割り出し、指導方法や解説方法について検討する。 また、国内における様々な手話指導現場(手話奉仕員養成講座、大学などの教育機関で開講されている日本手話の授業、民間の手話教室など)を視察、また手話指導にあたっている講師にインタビューを行ない質的に分析をする。 最終的には得られた結果を基に、日本手話のプロソディーについて、指導や学習のヒントとなる解説書を作成し、手話指導関係者や学習者、手話通訳者に提供する。
|
Causes of Carryover |
昨今の非常事態により、予定していたデータ協力者との対面が叶わず、そのため協力者への謝礼・データ収集のための旅費の支出を計画通りに執行することができなかった。 次年度に、まず手話の語りのデータ収集の継続および、データ判別タスクを行なう予定であり、前年度の余剰金額をデータ協力者への謝礼・それにかかる旅費に使用する。 続いて、次年度は外国の手話との比較分析を行うことが主な予定であるため、アメリカおよび香港への渡航・滞在費およびデータ協力者・通訳者・データ分析協力者の謝礼として支出する予定である。 また、国内の日本手話ネイティブサイナーにデータ分析の協力を依頼するため、そのための謝礼および旅費として支出、さらに、分担研究者と会合を持つため、関東地方への旅費・滞在費として支出する予定である。
|