2020 Fiscal Year Research-status Report
外国語教育における性的少数者への配慮に関する調査研究
Project/Area Number |
19K00851
|
Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
糸魚川 美樹 愛知県立大学, 外国語学部, 准教授 (10405152)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
塚原 信行 京都大学, 国際高等教育院, 准教授 (20405153)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 外国語教育 / ジェンダー / セクシュアリティ / 性的少数者 / スペイン語 / 表現ガイドライン |
Outline of Annual Research Achievements |
大学における初修外国語教育の現場が、性的少数者が安心して学べる空間となっているか、という問いをたて、マイクロアグレッションの視点から、初修外国語教育の空間を、教材を含めとらえ直すこととし、分析を開始した。その際、(1)初修外国語教育全体の問題と、(2)ある特定の言語に関して起こりうる問題という2点に分けて検討した。 (1)外国語教育の入門・初級クラスでは、自己紹介をはじめ、自分について教室で表現することが求められることがある。そのような場合に、ジェンダーやセクシュアリティなど社会の課題についての教授者(また教材作成者)側の無知や無配慮により学習者の不安が増大する可能性が考えられる。 (2)特定の言語の問題として、ヨーロッパ諸語では、文法の性の性質により指示対象の性に言及しなければならない表現を学習する機会が入門・初級レベルであり、この問題をどう扱うかが検討されなければならない。そのような言語を使うこと自体が性的少数者にとって不安を生じさせる原因となりうる。 このような課題に対し、日本語のジェンダー問題の現状を確認するため、内閣府や自治体が作成している「表現ガイドライン」を分析した。これについては、第26回情報保障研究会において、「大学外国語教育における『表現ガイドライン』」という題目で報告した。 また、上記(2)について、スペイン語の表現指針とそれへの反論に関する資料を収集し、分析した。1980年代以降、ヨーロッパの言語における非性差別的言語使用のためのガイドラインは現在「包括的言語使用」という性的少数者全体を含む運動に変わってきている。スペイン語について文法規範も揺るがす動きとなっており、大きな反発も一方で生んでいる。ただし、この「反発」自体がどのような言語観によるものなのかも分析対象となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ感染拡大により、2020年3月後半に計画していたスペインでのインタビュー調査を始め、予定していた調査などをキャンセルせざるをえなかった。インタビューについては、2021年度の後半の実施の可能性を検討している。同様の理由により、フランス語とスペイン語の人間名詞と性の比較対照研究の成果を共同研究として、フィレンツェで開催される予定であったイタリア言語学会においてポスター発表する予定であったが、学会自体が中止となった。2021年度オンライン開催が決定したため、そこでポスター発表する予定である。 インタビュー調査は現時点では実現できていないが、理論的枠組みの検討や文書データ収集については進めることができた。とくに、デラルド・ウィン・スーによる「マイクロアグレッション」の概念と本研究テーマを結びつけられたことは有意義であった。「マイクロアグレッション」については、すでに日本語教育及び異文化理解教育で用いられている概念であり、先行分野を参考にしつつ、既存の「人権教育」における課題として指摘されている問題を視野に入れ考察を進める必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度については、過去2年間の成果を公表することを重点的におこなう。すでに4件の研究発表(うち1件は共同発表)が決定しており、うち2件は国際学会での発表である。 (1)スペイン語の包括的言語使用とそれをめぐる議論及び言語観について、日本ロマンス語学会第59回大会統一テーマ「ロマンス諸語における社会言語学」の枠で報告し、同学会誌に投稿する予定である。(2)学習者の母語と学習言語の間で性の言及方法が異なる場合についての教授者にとっての課題というテーマで、日本語母語話者がスペイン語を学習する際のジェンダーの問題を分析し、その成果を、第2回教育、文献学、芸術におけるセクシュアリティとジェンダーの多様性国際学会(Congreso Internacional de Diversidad Sexual y Ge'nero en la Educacio'n, la Filologi'a y las Artes)に研究発表として応募し採択されている。(3)昨年度中止となったイタリア言語学会において、フランス語とスペイン語の人間名詞の形容詞的用法と性についてポスター発表をおこなう予定である。(4)スペイン語の親族名詞の形容詞的用法と性との関係性について関西スペイン語学研究会にて研究報告をおこなう。 そのほか、自治体作成の表現指針を分析し、取り組みの背景等を調査し『社会言語学』(「社会言語学」刊行会)に投稿する。 2021年度後半には、可能であれば国外での調査を再開する。
|
Causes of Carryover |
2020年度は、当初予定していた国外での調査及び国内外での研究発表のための旅費等の支出がなかったため、当該年度の支出が減額となった。2021年度の後半に国外調査を実施する予定である
|
Research Products
(3 results)