2020 Fiscal Year Research-status Report
プロソディシャドーイングが統語処理の自動化に及ぼす影響
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19K00855
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Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
中西 弘 西南学院大学, 外国語学部, 教授 (10582918)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | プロソディーシャドーイング / プロソディー / 統語処理 / ワーキングメモリ |
Outline of Annual Research Achievements |
本科研の主要テーマである、「プロソディーシャドーイングが統語処理の自動化に及ぼす影響」を検討する前段階として、日本人英語学習者が統語的に認知負荷の高い文(例:関係節文)理解時にプロソディー情報をどのように利用しているのか、さらに、プロソディー情報の利用が、ワーキングメモリの運用効率にどのように影響を与えるのか調査するために実証研究を行った。 大学生・大学院生70名を分析対象とし、英語習熟度を測定するテストとして、Oxford Online Placement Test と3種類のリスニングスパンテストを実施した。 リスニングスパンテスト課題として、主格関係節・目的格関係節文を21文ずつ、合計42文からなる課題を3種類作成し、それぞれ異なるプロソディーを付与した関係節文を提示した(A:統語―プロソディ一致条件、B:中立条件、C:統語―プロソディ不一致条件)。これらの文は意味性判断課題としても使用されるため、42文に意味的に正しい文と不適切な文が半分ずつ含まれている。 実験の結果、音声提示された関係節文理解にプロソディー情報が適切に利用できるかどうかは習熟度によって異なり、英語習熟度が低い学習者は、プロソディー情報を正しく利用出来ないことが示唆された。ただし、英語習熟度が高い学習者でさえ、ワーキングメモリの運用効率は英語習熟度が低い学習者と同程度のものでしかないことが示された。 本研究で使用された関係節文は、プロソディー情報が利用できる条件でさえ、極めて処理負荷が高く、保持機能に回すだけのWM資源が残っていなかった可能性がある。この研究内容を論文としてまとめ、学内の外国語学論集に単著論文「プロソディー情報がリスニングスパンテストの文理解と文末単語再生成績に及ぼす影響について」を提出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本科研の最終的な目的は、プロソディーシャドーイングが統語的に複雑な文処理を促進させるかどうか調査することにある。その前段階として、日本人英語学習者による音声言語理解時にどのようにプロソディー情報が利用されるのか調査することが必要であり、以下のような実証研究を行った。 母語話者においても認知負荷が高いとされる関係節文を実験文として、以下の3条件を日本人英語学習者に音声提示し、英文理解度とワーキングメモリ運用効率を測定した。(A) 統語―プロソディ一致条件:適切な統語境界上にポーズを挿入 (例:The man that married the woman / became her husband.)(B)中立条件:ポーズ挿入無し (The boy that the volunteers support is a young man.) (C) 統語―プロソディ不一致条件:不適切な統語境界上にポーズを挿入(例:The cook that values / the guests serves good dishes. ) その結果、関係節文の理解にプロソディー情報を適切に利用できるかどうかは習熟度によって異なり、英語習熟度が低い学習者はその情報を正しく利用出来ないことが示唆された。ただし、英語英語習熟度が高い学習者でさえ、ワーキングメモリ運用効率は英語習熟度が低い学習者と同程度であった。 先行研究では、英語母語話者は、音声言語理解時にプロソディー情報を適切に即時的に用いていることが示されている。今回の結果を踏まえ、日本人英語学習者がプロソディーを適切に文理解に利用できるようなトレーニング(プロソディ―シャドーイング)を行い、統語処理の自動化につながるかどうかを検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度実施したような、日本人英語学習者が音声言語処理時にいかにプロソディーを利用するのか、その心的メカニズム探る実証研究を引き続き行う予定である。扱う刺激文は、今回使用した関係節文のみならず、構造的曖昧文(前置詞句付加構文、関係詞付加曖昧構文)を用いる予定である。 実験の枠組みは、今回の研究と同様に、プロソディー条件を操作し、(A) 統語―プロソディ一致条件、(B)中立条件、(C) 統語―プロソディ不一致条件、の3種類で実験文を音声提示する。構造的曖昧文の理解得点・理解速度をプロソディー条件間・習熟度間で比較する予定である。なお、これらの実験文はすでに作成している。 これらの実験結果を踏まえ、プロソディー情報が適切に付与された処理負荷の高い構文(例:関係節文)を繰り返し英語学習者にシャドーイングさせることで、その文理解が促進されるのかどうか、またワーキングメモリを効率的に運用できるようになるのかどうか調査する予定である。
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Causes of Carryover |
発表予定のAILA 2021 World Congressが、本年度に延期になったことが理由に挙げられます(本年度オンラインで開催されます)。また、新型コロナウイルスの影響で、資料収集・学会出席が出来ないこと、音声データ分析のためのアルバイトを、現在対面で学生にお願い出来ないことも理由の1つです。新型コロナウイルスが落ち着きましたら、旅費やデータ分析のアルバイトに使用させていただく予定です。
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Research Products
(1 results)