2021 Fiscal Year Research-status Report
プロソディシャドーイングが統語処理の自動化に及ぼす影響
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19K00855
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Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
中西 弘 西南学院大学, 外国語学部, 教授 (10582918)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | プロソディシャドーイング / 統語処理 / ワーキングメモリ / リスニングスパンテスト |
Outline of Annual Research Achievements |
ことばの理解には様々な処理段階が含まれるが、特に統語処理が日本人英語学習者にとって最もワーキングメモリ(WM)資源を要する処理段階である (Nakanishi & Yokokawa, 2011)。その要因の1つとして、日本人英語学習者は、英語母語話者に比べ、プロソディー情報を文理解過程で即時的に利用できていないことが指摘されている(Nakamura et al., 2021)。 そこで、本年度は、日本人英語学習者を対象に、関係詞や前置詞句を含む文処理時にプロソディー情報を適切に利用できているか、また、その利用がWMの運用効率に及ぼす影響について習熟度別に検討した。 実験1・2共に、習熟度テスト(Oxford Online Placement Test)とリスニングスパンテスト(LST) が実施された。LST使用文は、実験1では主節に関係節(主格・目的格関係節)を含む文(例:The boy that the volunteers support is a young man.)、実験2では主節に前置詞句を含む文(例:The suspect in the accident will be arrested.)を使用した。実験1・2共に、3種類のプロソディー条件が設けられた(A統語―プロソディー一致条件:適切な統語境界上にポーズを挿入、B中立条件:ポーズ挿入無し、C統語―プロソディー不一致条件:不適切な統語境界上にポーズを挿入)。 主な結果は、実験1・2共に、1)文理解度は、A条件が他条件に比べ有意に高いが、2) WM運用効率は条件間で差が見られなかった。また、実験1では、 3) A・C条件では、上位群の理解度が下位群よりも有意に高いことが示された。これらの結果から、関係節文のような複雑な統語構造を理解する上では、プロソディー情報の利用に習熟度の差があることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は2つの研究を行い、2本の論文執筆と2本の学会発表を行った。 論文としては、①中西弘(2021)プロソディー情報がリスニングスパンテストの文理解と文末単語再生成績に及ぼす影響について, 西南学院大学学術研究所外国語学論集、2(1) 1-16. ②Hiroshi Nakanishi (2021) Using Prosodic Cues in Syntactic Processing: From the Perspective of the English Proficiency , JASEC 30(1) 17-28. 学会発表としては、①Hiroshi Nakanishi (2021)The Effect of Attentional Direction on Specific Aspects of Language Processing: Japanese EFL Learners and Shadowing Training, AILA2021. と、②中西弘(2021)ワーキングメモリ運用効率と第二言語熟達度 , ことばの科学会オープンフォーラム2021. を研究成果として発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究1・2から、関係節文のような複雑な統語構造を理解する上では、1)習熟度が低い学習者は、高い学習者に比べ、プロソディー情報を十分に利用できておらず、2)習熟度が高い学習者といえども、関係節文処理自体に認知負荷がかかるため、必要な情報を記憶するためのWM容量が十分に残されていないことが示唆された。 そこで、ターゲット文として、関係節を含む文や中身―空所構文のような認知負荷のかかる文を用意し、韻律情報(ピッチやポーズなど)を付与したモデル音声を繰り返しシャドーイングさせることで、それらの構造を含む文理解が促進されるのかどうか検討することを、今後の主な検討課題とする。 実験計画としては、実験参加者を習熟度テスト(Oxford Online Placement Test)により、習熟度の等しい2群に分け、一方の群には統語境界上にポーズを付与した条件下において(例:The man that married the woman / became her husband.)、もう一群にはポーズ挿入の無い条件下において、100文をシャドーイングさせる(100文には、関係節を含む文等のターゲット文が60文・フィラー文が40文含まれる)。実験参加者は1文1文シャドーイングするごとに、その文が意味的に正しいかどうか判定することが求められる。また、事前・事後のリスニング課題(意味性判断課題)として、ターゲット文を12文・フィラー文を8文用意する。 事前事後課題におけるターゲット文の正解率を比較することで、a)実験参加者のターゲット文理解が促進されるのか、さらに事前事後課題として音読課題を課し、実験参加者の音声を比較することで、b)発音(特定の分節音やリズム・イントネーション)面における向上が見られるのかどうかも合わせて検討する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、国際学会を含む学会参加が叶わなかったこと、アルバイト学生に音声データ整理の依頼が出来なかったことがその主な理由である。次年度は、対面参加が可能な学会での情報収集や発表を行い、また状況が許せば、収集したデータの整理をアルバイト学生に依頼する予定である。
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Research Products
(4 results)