2019 Fiscal Year Research-status Report
日仏バイリンガル話者の異文化間語用論能力の解明と教育への応用
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19K00857
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
原田 早苗 (井口早苗) 上智大学, 外国語学部, 教授 (30286752)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日仏バイリンガル / 語用論 / フランス語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日仏バイリンガル話者である日本人が、日仏の異文化間コミュニケーションの場において、発話行為の遂行をどのように臨機応変に対応させているのか、また彼らにとって難しいストラテジーを知るとともに、その理由が何に起因するのか(アイデンティティーの問題等)を明らかにすることである。日仏バイリンガル話者のうち、長年フランスで生活し、職場および家庭を含む多様な場面で両言語を日常的に使う日本人を研究対象とする。 Thomas (1983)はpragmatic failure「語用論的失敗」を論じ、いかなる発話にもなんらかの意図、機能があり、その意図を正しく伝えられないとき、あるいは理解できないときに語用論的失敗が起きると述べている。日仏バイリンガル話者が語用論的失敗を避けるために発話行為の遂行方法をどのように切り替えているのか、またその理由が、両言語のどの語用論的特徴および社会言語学的な側面(上下関係、親疎関係の相違など)にあるのかを本研究で探る。 半構造化インタビューを実施してデータの収集を進めている。DCTは擬似的な場面を設定するため、分析の際に状況設定の曖昧さが問題となる。半構造化インタビューを用いることにより、共通の質問項目を設けながらも、各自が実際に経験した場面について、使用したストラテジーだけでなく、回避したストラテジーについても聞き取ることが可能である。 インタビューは、主に次の2つの質問群を中心に行なっている。1つ目は、具体的な場面と対話相手との関係を描写してもらいながら、どの発話行為に対してその遂行方法を切り替えるのか(あるいは切り替えないか)、またその理由について。2つ目は、フランス語の語用論的知識をどのように学んだか、これまでの学習歴や学習環境について。渡仏の年齢によるが、日仏両言語の語用論の感性をどのように獲得・維持したのかについても質問している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
外国語教育およびバイリンガリズムにおける異文化間語用論に関する先行研究やパイロット・スタディの結果に基づきながら質問項目を設定し、技術的な面についてはBertaux (2010)等も参考にしつつ、上記で述べたインタビューの質問群を準備した。その後、在仏歴20年以上で就業経験のある日本人にインタビューの依頼を行い、その結果、初年度の2019年度はフランスで5人にインタビューを実施することができたが、初年度に予定していた人数よりは少ない結果となった。各インタビューは1時間から1時間半にわたって行われ、回答者の同意を得た上で録音された。現時点において録音データの日本語部分の書き起こしは完了している。回答の中には日仏両言語間のコードスウィッチングやフランス語表現への言及があり、フランス語の箇所については別途書き起こしを行なっている。内容の分析を進めているが、回答者のプロフィールは様々であり、職場および家庭を含む多様な場面のデータを得ることができた。渡仏時の年齢(子供・大人)、在仏年数(20年から50年以上まで)、フランス語の学習環境(現地校・日本の大学 や語学学校)、家族(子供の有無や国際結婚等)、職場での使用言語(フランス・日本語・英語)といった要因を軸にデータを分析している。発話行為の中では 「謝罪」に言及したものが多いが、「褒める」「要求する」「批判する」等も挙がっている。
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Strategy for Future Research Activity |
インタビュー実施分について内容の分析を引き続き進めつつ、次年度のインタビューに向けて質問項目や分析方法の妥当性を考察する。語用論に関するインタビューの難しさの一つに、回答者が具体的な場面をすぐに想起しにくい点がある。実施済みインタビューでもその様子が窺えたため、誘導にならない範囲でトリガーとなりそうなエピソードを用意しておくことも重要である。また、インタビューを通して、politesse / impolitesseとは何を指すのかを考えさせられる場面があり、Watts (2003)やKerbrat-Orecchioni (2010)を参考に考察する。特に後者で述べられているhyperpolitesse, non-politesse, polirudesseの概念はインタビューの分析に新たな視点として導入できるのではないかと考える。 次年度のインタビューの実施は、コロナ感染拡大の状況によって大きく左右されることが予想される。在仏歴20年以上で就業経験のある日本人はフランス在住のことが多く、フランスに渡航できない場合は調査の内容や方法の再検討を迫られる可能性もある。
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Causes of Carryover |
インタビュー回答者の人数が当初の予定を下回ったため、インタビューの謝金および書き起こしの謝金が残ったが、次年度以降のインタビュー実施と分析に使用する予定である。
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