2021 Fiscal Year Research-status Report
日仏バイリンガル話者の異文化間語用論能力の解明と教育への応用
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19K00857
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
原田 早苗 (井口早苗) 上智大学, 外国語学部, 教授 (30286752)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 異文化間語用論 / ターン・テイキング / emotion (感情) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日仏バイリンガル話者の異文化間語用論能力について調査し、実際のコミュニケーションの場で生じる問題を分析することである。長年フランスで生活し、職場および家庭を含む多様な場面で両言語を日常的に使う日本人を研究対象とし、半構造化インタビューを通してデータの収集を進めている。昨年度はターン・テイキングの問題を取り上げ、様々なストラテジーのうち特に問題となるものについて、まずは日本人フランス語学習者にアンケートを実施した。相手のターンが終わらないうちにかぶせるように話すフランス語のターン・テイキングに対して、日本人学習者は抵抗感を示したが、日本人バイリンガル話者も同様の点を指摘している。 今年度もターン・テイキングについて考察を続け、日仏バイリンガル話者の回答をethos communicatif (Kerbrat- Orecchioni, 2002; Beal, 2010)の観点から分析を深めた。話者交替のタイミングとしては、現在の話し手が次の話し手を指す場合と、聞き手が自主的に話し手になる場合があり、言語的・非言語的な手段で交替が起こる(Sacks et al.,1974)。日本人とアメリカ人を比較した先行研究では、日本人は前者の方法を好み、アメリカ人は後者が多いとの結果が示されているが、本研究のインタビューの結果においても同様の傾向がみられた。 職場の会議等の場面で生じるターン・テイキングの難しさを回答者全員が指摘しているが、回答のなかにemotionに関連する表現が多くみられることにも注目している。感情を個人的で内的な現象としてのみとらえるのではなく、社会文化的な環境などの外的な要因に焦点をあてた研究も参照しつつ分析を進めている(Dornyei, 2009; Pavlenko, 2005; Prior & Kasper, 2016; Swain, 2013)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に引き続き、今年度もコロナ感染拡大の影響で海外渡航が実現せず、研究計画に遅れが生じている。コロナ感染拡大以前に実施したインタビューの分析を深める形で研究を進めている。これまで在仏歴14年から50年の日本人5名のインタビュー内容をターン・テイキングの観点から分析した。ターン交替のタイミングとしては、現在の話し手が次の話し手を選ぶ場合と、聞き手が自ら発言して話し手になる場合がある。回答者は、フランスでは話し手が聞き手の意見を求めるなどの形で話者を交替する頻度が少ないと指摘する。そのため、発言するタイミングが難しく、ターンを明示的に渡してもらえない場面での発言が難しいとのコメントが多くみられた。回答者によると、フランスの職場では昇進に関わる評価に発言する、主張することが影響するため、「無理してでも発言するのが大変」「自分の性格に反する」といった言葉も度々聞かれた。このように5人とも、日本的なethos communicatifを変えることに困難を感じている。「誰にどう思われようと自分のやるべき仕事をやっていればいい」と述べる人もおり、大人になってからバイリンガルになった場合、母語の規範と異なる側面に対してみせるresistance (Kecskes, 2015)と捉えることができる。 自分の日本的なethos communicatifに対して受容あるいは諦めを示す回答が多いなか、葛藤を示すコメントもみられた。大人になってからではなく子供時代にフランスに渡り、教育もフランスで受けた回答者からは諦めや受容の表現ではなく、困惑や恥といった感情を示す言葉が度々聞かれた。また、怒りを表現することの難しさにも触れていたが、これは先行研究でも指摘されている点である(Dewaele, 2016; Kitayama et al., 1995; Toya & Kodis, 1996) 。
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Strategy for Future Research Activity |
在仏歴20年以上で就業経験のある日本人はフランス在住のことが多く、今年度に引き続き来年度もフランスに渡航できない状況が続く場合は、調査の内容や方法の再検討を迫られる可能性がある。渡仏できないため、今年度はオンラインでインタビューを試みたが、やはり対面と比べて数々の難しさを感じた。2019年度に行ったインタビュー調査のデータ分析を進めることによって、日仏バイリンガル話者が話者交替に関して抱いている問題点をemotionの観点も含めて浮き彫りにすることができたが、今後はターン・テイキング以外の側面も扱っていく予定である。また本研究の目的の一つでもある日本人フランス語学習者の語用論教育にも引き続き焦点を当てていく。
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Causes of Carryover |
2020および2021年度はコロナ感染拡大のため海外渡航不可の状況が続き、旅費の支出がなかったのが主な理由である。また、インタビューも実施できなかったため、謝金の支出もなかった。2022年度に海外渡航が可能になった場合、フランスでの調査を再開する予定でいるため、旅費と謝金の支出が見込まれる。
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