2021 Fiscal Year Research-status Report
The Effects of an E-Book Extensive Reading Program on EFL University Students With Varied Proficiency
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19K00859
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
須賀 晴美 帝京大学, 理工学部, 講師 (70827279)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 多読 / 読解力 / 電子書籍 / graded reader / 英語教育 / 情動 / リーディング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「習熟度の差のある大学生が、継続的に授業内多読を行うと、トレーニング効果が出て読解力が向上するかどうか、かつその効果を学生は実感 できるのか」という問いを解明することで、具体的には以下の3点である。(1) 多読が読解力にもたらす効果が統計的に有意になる時点でのトレーニング量、 (2) 学生が向上を実感する時点のトレーニング量、(3) その量が習熟度によって影響を受けるかどうかを解明することである。 (1)に関しては、多読期間(1年)前後2回の読解力診断テストの平均点を比較したところ、28.7点の向上となり、統計的に有意な形で読解力が向上したことが分かった。トレーニング量の特定に関しては未解決である。読了語数の平均は42,313語となったが、平均値に満たない読了語数でも2度目の習熟度テストの点で向上する者が見られ、最初の習熟度テストの点と点数向上の度合に中程度の負の相関が見られたからだ。(2)に関しては、本研究が協力者に心理的に良い影響を与えていることは検証された。読解に関するアンケートの英語読解の難易度に対する感覚、英語読解への親和度を反映する項目において統計的に有意な向上が見られたからだ。しかし、トレーニング量については解明に至っていない。2度目に「自分は英語を読むのは大丈夫だと思う。」と答えた協力者は、最初のアンケートでもそれに近い項目に丸をつけており、彼らの読了語数にはばらつきが見られたからだ。(3)に関しては、多く読めば習熟度は上がるが、初期の習熟度が低いものほど少ない語数を読んでも読解力の伸び代が大きくなるという傾向があるようだ。読了語数と2度目の習熟度テストの点数間には弱い正の相関が見られ、最初の習熟度テストの点と点数向上の度合には中程度の負の相関も見られたからだ。 この結果をさらに精査して研究を深め、学習者の読解力向上のために資するところとしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究3年目にして初めて、対面授業で通年で電子書籍を利用した多読を行うことができた。それでもコロナ禍ゆえの研究の遅れは挽回し難く、計画よりもやや遅れて研究が進んでいる。加えて研究をまとめる時期に業務増加によるエフォート配分の偏りが生じ、授業運営と発表はかろうじて行なったものの、論文完成には至らなかった。今年度の成果発表は次年度の論文数を増やすことで補いたい。 それ以外の点では、ほぼ計画通りの手順で研究が進められた。前期4月に1回目のオンライン読解力診断テスト受験、英語の読解に関するアンケート1を行なった。その後昨年度後期と同様に、多読サイトにはコスモピア社のeSTATIONを利用し、授業内多読を30分行い、授業外30分の多読を次の授業時までの課題とし、半期に読む目標語数を3つ提示した。定期的に読書記録を提出させ、クラスごとの名前を伏せた進捗状況表を配布して競争させた。学修後はデータの記録と分析、研究協力者への成果の通知を行なった。昨年度と違っている点は、この学習を前・後期の2セット行ったこと、2回目の読解力診断テストとアンケートを後期1月に行ったこと、後期の目標語数を前期より少し高めに設定したこと、不正防止のため読書後のリーディングクイズを必須としたことである。クイズの正答率に応じて読了語数を調整し、加算していった。 結果として、読解力診断テストでは平均点が28.7点向上と統計的に有意な上昇を示し、年間読了語数の平均は42,313語となり、アンケートでは英語読解の難易度に対する感覚、英語読解への親和度において統計的に有意な向上が見られ、このプログラムが心理的に良い影響を与えていることが検証された。 eSTATIONは読書記録表示の仕方に進捗状況表を作成するのに不都合な面があったが、3月にはシステムが改善された。新しい蔵書も増えているので、多読経験2年目の学生にも対応できた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度が本研究の仕上げの年となるため、効率よく多種の作業をこなしていきたい。 良いデータを取るための授業運営をしながら、かつ研究上の問いのうち、解明できる点とできない点をはっきりさせ、また副産物として発見された現象や事項についても正確に発表する予定だ。Extensive Reading Around the World Conference 2022 に参加し、日本多読学会年会で発表し、論文の投稿も積極的に行いたい。 授業運営では、次年度に2年目の多読を経験する2年生と、新しいクラスとなる2年生を1クラスずつ受け持つことになった。2つのグループの違いを念頭に置きながら多読をさせていきたい。前年度から継続の協力者には読解力診断テストの受験と読解に関するアンケート1への記入が必要ではないが、新しいクラスの2年生はそれらを行う必要がある。本の選択に関する指示なども2通りになるので、学生が混乱しないよう注意しながら両方のグループに適した指示を与えたい。 また、次年度の担当クラスに情報電子工学科の1年生が1クラス含まれることになった。本年度は同じ学科の2年生1クラスのデータも取れたので、パソコンを得意とする学科を他学科の協力者と比較分析すると興味深い結果が見られるかもしれないと考える。 本務校が対面授業を方針としたため、次年度も4月より対面での多読授業を開始できる運びとなった。本年度行ったような方法で通年に渡る多読の効果を観察したい。習熟度が上のものほど2回目の習熟度テストの向上度合が低いという傾向が見られたため、習熟度が上の協力者への指導法を改善し、分析方法を工夫したい。契約しているバーチャル図書館サイトの管理者画面も本年度末に改善されたので、進捗状況表を作る時間がやや少なくて済むようになると思う。 得られた成果を良い形で社会に還元できるように、研究方法と発表方法を工夫したい。
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Causes of Carryover |
初年度は倫理委員会対応のため、令和2年度は新型コロナウィルス蔓延のため、研究を半期しか行うことができなかったため、その蓄積で本年度も次年度使用額が発生している。 本年度は初めて通年で多読を行えたため、ヴァーチャル図書館サイトの利用料金が2倍になった。また前年度と同様にオンラインの読解力診断テスト受験料を支出し、新型コロナウィルス感染予防のための除菌用ウェットティッシュ購入をおこなったが、それでも依然としてJACETや日本多読学会の年会やセミナーが全てZoomによる開催となったので、旅費や宿泊費が必要なくなくなり支出は抑えられた。情報電子工学科の学生はパソコン持ち込みが義務付けられているので、除菌ティッシュ利用者が皆無に近く、他学科の学生も、学校のタブレット共用による接触感染を心配し、各自の電子端末を好んで利用する者が増えた。したがって除菌ティッシュの消費枚数も減少した。 次年度使用額は生じたが、それを令和4年度の研究費用 (図書館サイト利用料や読解力診断テスト受験料など) に充当し、やや遅れている進捗状況を取り戻したい。具体的には今年度でトータル2年分の多読授業を実施できたので、次年度に通年の多読授業が行えれば、総計3年分の研究を形にすることができる。何年度に本研究に関わったかで、協力者の多読期間も半期~2年半と様々になる予定だが、分析方法を工夫しながら研究をより良いものに仕上げたい。
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