2019 Fiscal Year Research-status Report
対話的学びにおける使用言語の違いが協働的ライティング活動に与える影響
Project/Area Number |
19K00876
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
久保田 章 筑波大学, 人文社会系, 教授 (30205132)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 事前活動 / 協働対話 / 言語モード / ライティング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主な目的は、(1)ライティングの事前活動をペアで協同して行う際の使用言語の違い(英語か日本語)によって、作業中のコミュニケーションの質や量は異なるか、 (2)コミュニケーションの質的・量的な違いは、最終課題である英語のライティングに影響を与えるか、の2点について検証することである。また、本研究は、複数回の活動を前提に、ある程度長期的なデータ収集を企図しており、当初はその計画に従ってデータ収集を行う予定であったが、校舎の耐震工事により、CALL教室が使用できないことになったため、2019年度は文献研究と過去に収集した予備的データの分析に充て、特に「英語で行うのが難しいコミュニケーションの機能は何か」を中心に研究を行った。 予備実験では、中下級レベルの大学生40名が20名(10ペア)ずつ2つのグループに分かれ、グラフの内容を英語で記述する課題の事前作業をそれぞれ英語と日本語によって協働で行った。ペアで実施する作業は対面ではなく、安定的かつ純粋に音声のみによるやりとりのデータを収集できるCALL教室の学習システムを利用して行った。 その後各グループから5ペアずつを抽出し、やりとりを文字化して(1)「ターン」を算出し、(2) 各ターンを機能別に「内容」や「言語」などの4つの範疇に分類し、さらに(3)言語に関するターンを「文法」や「語彙」などの4種に下位分類した。 英語グループと日本語グループのデータの比較検討を行った結果、英語グループにとって英語で行うのが比較的難しかったのは、「文法」、「語彙」、「文章構成」についてであることがわかった。一方、相手の発話の意味の解釈については、ある程度英語でやりとりできたことがわかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初は、2019年度中にライティングの事前活動としてペアで対話しながら課題に取り組む活動を複数回行う計画であったが、CALL教室が耐震工事のために使用できなくなったことから、その調査ができなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、前年度に実施できなかったデータの追加収集を行うとともに、音声データを文字化し、そのデータを(1)学習者の熟達度、(2)対話を行ったペアの特性、(3)対話におけるやりとりの機能と内容、(4)英作文の評価、という4つの観点から分析する。熟達度は、大学で実施する外部テストの成績を基準にして判定する。ペアの特性は、 Storch (2002) やWatanabe and Swain (2007)を参考に、会話分析の手法を援用して、発言の量とターンの数などから判定する。各学習者を「熟練者」、「協働的」など5つのタイプに分類し、それぞれのペアの組み方とやりとりの特徴の関係を把握する。やりとりの内容や機能の分析については、先行研究で提案された「作業方法の調整」や「意見や思考の創出」などのコミュニケーション機能の観点から分類し、出現する機能に、日本語と英語の間で異同があるか検証する。英作文の評価に関しては、英作文の客観的評価指標を用いて、英語の正確さ、流暢さ、複雑さの3つについて考察する他に、分析ソフトの利用も検討する。 2021年度は、さらに英作文の評価を継続し、望月・久保田・磐崎(2005)で作成した作文の評価用ルーブリックを用い、語彙・文法、構成、 タスクの到達度などの観点で、分析的評価を行う。以上の研究成果に基づき、(1) 英語によるやりとりの難しさの要因を明らかにすると共に、 ペアごとのやりとりの実態と協働して書かれた英作文の評価の関係を検証し、(2) 母語である日本語を用いるメリットの有無と活用の可能性、 (3) 英語(だけ)によるやりとりを実現するための指導のあり方の3つについて提言する。
|
Causes of Carryover |
最大の要因は、年度途中から校舎の耐震工事が開始されたため、データ収集を予定していたCALL教室の設備が利用できなくなったことにある。新規の作文データを入手することができなかったので、音声データを文字化するための人件費や作文評価のためのソフトウエアの購入経費分が未使用となった。また、データ収集後に、データの分析方法について助言を得るため英国に出張する計画であったが、同様に使用できなかった。 耐震工事が完了する2020年度後期になれば、当初の予定に従って新たなデータ収集活動が可能となることを想定している。それに伴い、人件費やソフトウエア購入、さらに旅費も予定通り使用する予定である。
|