2023 Fiscal Year Annual Research Report
社会主義人口論と家族計画運動をめぐる世界史:1974年の世界人口会議を中心に
Project/Area Number |
19K00941
|
Research Institution | Hokusei Gakuen University |
Principal Investigator |
中地 美枝 北星学園大学, 文学部, 教授 (90567067)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 反マルサス主義 / ソ連 / 人口学 / 家族計画 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度となってもウクライナ戦争が終わらず、アルヒーフでの史料収集は叶わなかったため、他の形で史料収集を続けつつ、これまでに収集した史料の読み込みと分析を進めた。また、これまでの研究の成果の一部について、アメリカ歴史協会の年次大会のパネルで報告することが出来た。 研究全体としては、コロナ感染の拡大とウクライナ戦争の勃発によって、当初予定していた形での研究は進められなかったが、代わりに日本と欧米でソ連の統計、人口学者、人口学に関する史料や一部アルヒーフの史料を収集し分析を進めた。その結果、研究開始当初に設定していた「なぜ1974年にソ連は家族計画を受け入れたのか」や「これは人口論における東西対立の終わりを意味したのか」という問いに対して、一定の答えを出すことが出来た。 まず明らかになったのは、ソ連の人口学者の間で、既に1960年代の始めには反マルサス・新マルサス主義の議論が大きく変わっていたことである。最大の理由は、アジア、アフリカ諸国で戦後凄まじい速さで進んでいた人口増加に対し、もはや「全く問題ない」という従来のソ連の主張は不十分である、と多くのソ連の人口学者が認識したことにあった。彼らは、マルクスやレーニンの反マルサス論の再解釈を大胆に進め、結果的に一定の条件が成り立つ場合には、相対的人口過剰が認められ、家族計画は有効であり得ると主張した。この新たな議論の中で、戦後の日本が進めた家族計画運動が成功例として挙げられていたのは、特に興味深い発見だった。 しかし家族計画の容認は、人口論における東西対立の終わりを意味しなかった。なぜなら、ソ連の学者は、産業発展と社会主義的な施策を伴わずに進められる家族計画の有効性については否定し続け、根本的には反マルサス主義の立場を維持したためである。 現在今回の成果を基にした論文を執筆している。今後はこれを書き進め、国際的な学術誌に投稿したい。
|
Research Products
(2 results)