2020 Fiscal Year Research-status Report
East-West Comparative Studies of Popular Print as New Cultural History
Project/Area Number |
19K00942
|
Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
原 聖 青山学院大学, 文学部, 客員教授 (20180995)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 民画 / エピナル版画 / 東西比較 / 年画 / 大津絵 / 民衆画 |
Outline of Annual Research Achievements |
民画の東西比較のための個別実証研究の報告研究会を主に行なったが、大部分はオンラインによる研究会で、実地調査は全くできず、次年度に持ち越しとなった。 5月30日、2020年度第1回研究会をオンラインで開催し、研究代表者原聖が欧州の民画、特にフランス(ブルターニュとアルザス)、イギリスについて比較研究の観点から報告を行なった。6月20日、第2回研究会をオンラインで開き、三山陵(日中藝術研究会)が中国における民画としての年画について、その範囲や類似物について、また台湾との比較を行なった。7月11日、第3回研究会をオンラインで開催し、久野俊彦(東洋大学)が、日本における民画の概念を整理し、柳宗悦以来の研究についても概観を行なった。9月19日、文京区のアカデミー千石にて第4回研究会を開催し、クリストフ・マルケ(フランス国立極東学院)が、日本の江戸時代の民衆画としての大津絵を取り上げ、フランスのエピナル版画との比較を論じた。実際に集まって研究会を開催できたのはこの時だけだった。12月19日、第5回研究会を開催し、加藤紫識(和洋女子大)が、日本の地口行灯について、民画の観点から報告を行なった。2021年1月21日、第6回研究会を開き、三津山智香(筑波大学大学院)が民画としての絵馬について、青森県の事例を報告した。2月13日、第7回研究会を開催し、上田あゆみ(一橋大学大学院)がエピナル版画の民衆性について報告した。 11月初め、東京の日仏会館でフランスからの研究者を招聘しての、民画の日仏比較研究シンポジウム、ならびにフランス、日本、中国の民画展示を合わせて行うことを計画したが、コロナ禍により来年度(2021年11月)に延期になった。中国への実地調査も延期となったが、それ以外では、順調に研究が進み、来年度の最終的総合化に道筋をつけることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、実地調査による個別研究の進捗が全くなく、なおかつ比較研究のためのシンポジウムも開催できなかったため、全体的に見ると、当初の計画と比べ、進捗状況はやや遅れていると言わざるをえないが、それでもオンラインによる研究会を7回積み重ねることで、それなりの進展を見ることができた。とりわけ、研究の中心的概念である民画については、当初、エピナル版画のような民衆版画が主なものとして想定されたが、日本では、手書きの大津絵がむしろ主要な民画であり、欧州でも教会に奉納される「エクス・ヴォトー」(奉納絵)を考えると必ずしも版画だけではない。また、当初は、日本の浮世絵をむしろ匿名性とは無縁の「高級芸術」として対象から除外していたが、特に幕末以降では、錦絵と同様の大衆性を持ち、作家名もあまり注目されなくなって、民画に近い存在だった。したがって、こうした一部の浮世絵は対象に入れることになった。日本の個別事例でも、大津絵ばかりでなく、地口行灯、絵馬の実証研究が報告され、民画の範囲は大きく広がった。こうした個別事例の報告の蓄積を考えると、研究の進捗状況はそれほど悲観する状況でもない、とも言えるだろう。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度は研究の最終年度なので、民画の東西比較研究のまとめを行う。 まず、5月16日、日本西洋史学会大会(オンライン)にて、小シンポジウム「文化史(歴史人類学)としての比較史、民画東西比較研究を題材として」と題して、一般の研究者に向けた研究の公表を行い、本研究に対する外部からの意見・批判を受け、最終的なまとめへの導入とする。本シンポジウムでは、研究代表者である原が比較史についての史学史的理論的検討を行い、なおかつ欧州と東アジアでの民画についての比較研究の切り口について、概括的な報告を行う。史学史的検討についてはフランスの歴史学者における比較史的研究に詳しい竹下和亮(東京外国語大学)がコメントを行う。民画の比較研究については、三山陵が中国国内での年画について、生産地ごとの特徴を明らかにし、比較研究を行う。また久野俊彦が日本の民画について、東アジアにおける比較の視点を前提に報告を行う。 6月から10月にかけては、これまでの個別研究をさらに進展させる研究会を3回開催する(報告者についてはすでに1人は決定している)。11月6ー7日、東京の日仏会館にて、2020年度から延期となった民画の日仏比較研究のシンポジウムを開催する。これについては日本の民画、特に大津絵に詳しいクリストフ・マルケ (フランス国立極東学院)を招聘して、東西比較の視角をより強める形にする。合わせて、フランス、日本、中国の民画の展示会を開催し(11月4ー10日)、視覚的な東西比較の観点も取り入れる。 12月にこれも昨年度実施できなかった中国での調査を行い、実地調査の観点からこれまでの研究を補完する。2022年1月に、3年間にわたる本研究を総合するシンポジウムを開催し、3月に本研究の研究成果をまとめる報告書を刊行する。
|
Causes of Carryover |
予定していた中国での実地調査がコロナ禍により実施できなかっため。
|
Research Products
(8 results)