2019 Fiscal Year Research-status Report
司馬江漢「地球分図」の史料性の分析を主とした江戸知識人の海外情報受容過程の解明
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19K00943
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
吉田 厚子 東海大学, 現代教養センター, 教授 (50408069)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 司馬江漢 / 「地球分図」 / 史料論 / 文化交流史 / 江戸時代 / 洋学史 / 海外情報受容過程 / 日蘭・日魯 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、これまで殆ど着目されていなかった司馬江漢「地球分図」に初めて焦点を当て、その作成過程を分析することを通じて史料性や史料的価値を解明し、江漢の海外情報受容過程を具体的に究明することを目的としている。本年度は研究期間の初年度であったので、研究全体の準備期間に当て、次年度以降の研究作業に向けた基盤形成につとめた。具体的な研究実績は、以下の通りである。 研究代表者は、研究実施計画にのっとり、司馬江漢は、何故、どのような経緯で「地球分図」を作成したのかに加え、「地球分図」所収の29折の図版の分析を通じ、江漢が如何なる情報や書物・地図・器物を参照して製作したのかを、既存及び新規購入の各種史料と照合しながら特定し、製作過程を具体化する作業に着手した。また司馬江漢が「地球分図」を作製するに当たって参照した情報源・史料源の入手・閲覧ルートを、『司馬江漢全集』所収の著作・作品や伝記史料にあたりつつ、人的ネットワークや生涯の行動などに鑑みて考察し、江漢の海外情報受容過程を明らかにしようとした。 一方、研究協力者の吉田忠は、司馬江漢の海外情報受容過程の解明に取り組んだ。司馬江漢は地動説をはじめ西洋天文学の知識の普及家としてよく知られている。初期の著作『和蘭天説』(寛政八年)に出る観測器具の図は、蘭書ではなく、中国に渡った宣教師の一人フェルビースト(南懐仁)の『霊台儀象志』(1674)に付けられた図によっている。江漢の紀限儀之図の全体像は南懐仁の第三十三図に基いているが、窺筒を動かす歯車機構は第五図を適宜アレンジして描いている。さらに、象限儀の図自体は西洋式ではなく、垂剣を備えた当時用いられていたものを示すが、その脇に記された対角線目盛は『霊台儀象志』により描かれるものである。天文方を中心とするこの西学漢籍の受容については論文化して論じ、江漢の対角線目盛模写についても言及した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記の「研究実績の概要」欄で述べたとおり、全ての研究者は、概ね当初の研究実施計画にのっとった研究活動を行うことができた。 しかし当初予期していなかった新型コロナウィルス感染拡大の影響で、年度末に予定していた、熊本大学文学部付属永青文庫研究センターでの「地球分図」の再調査や、「地球分図」が有する現代的意義の探求に向けた研究協力者との打合せ会議を実施することができななかった。 そのため、現在までの進捗状況については、「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には、研究実施計画通り、初年度の研究作業を継続するが、当面は、本年度中に実施できなかった熊本大学文学部付属永青文庫研究センターでの「地球分図」の再調査と、「地球分図」が有する現代的意義の探求に向けた研究協力者との打合せ会議の実現に重点を置くことにする。 加えて、司馬江漢の海外情報受容の在り方が、当時においてはどう位置づけられるのかを、江漢と交流のあった大槻玄沢や伊勢商人稲垣定穀などの事例と比較検討し、江戸知識人の海外情報受容の実態や、当時の日蘭・日魯文化交流の新局面をより鮮明にしていく作業にも着手し、研究を推進していく予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大の影響により、当初年度末に予定していた熊本大学文学部付属永青文庫研究センターでの「地球分図」の再調査、「地球分図」の製作過程を具体化するために要する神戸市立博物館等での史料の調査や撮影、研究協力者との打合せ会議の開催ができなかったため。
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Research Products
(1 results)