2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00946
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
工藤 晶人 学習院大学, 文学部, 教授 (40513156)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 比較史 / グローバル・ヒストリー / 地中海 / 景観 |
Outline of Annual Research Achievements |
地中海史の意義は、ナショナル・ヒストリーかグローバル・ヒストリーかという二項対立的な見方を越えて、その中間域となる空間を主題化することにある。 地中海の一体性を論じたブローデルから、多様性と分断を強調するホーデン・パーセルへと至る研究動向をふまえ、近代の地中海史をどのように描くべきか。これが、本研究の原点にある着想であった。 本年度の研究では、昨年にひきつづき近世後期の移動者の地中海経験について検討をすすめた。ミシェル・ヴァンチュール=ドゥ=パラディは、レヴァント諸港に駐在する領事・通訳を輩出する家系出身の男性と、ギリシア系女性のあいだに生まれたとされ、パリの東洋語学校の寄宿生として学んだ。イスタンブル、サイダ、カイロに勤務した後、ヴァンチュール=ドゥ=パラディはヴェルサイユに召還されてそこでトート男爵と出会い、トートのレヴァント派遣・視察に随行した。トートはハンガリー系貴族の子で、オスマン帝国への派遣経験のある外交官であった。彼はオスマン帝国の弱体化と将来の解体の可能性を報告してフランス宮廷の外交政策に影響をあたえた。そして、トートとヴァンチュール=ドゥ=パラディのレヴァント派遣は、将来のエジプト侵攻を準備するための情報収集を兼ねていたという事実が知られている。本年度は、彼らの足跡と活動について基礎的な情報収集を進めた。本研究の長期的な目標は、19世紀以降も視野にいれた地中海における人と思想の交流について展望をひらくことにあり、その成果の一部は単著1点(2021年度中に原稿提出、2022年度刊行)、論文1点、学会報告1回に反映された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍のもとでの本務校業務の変質と、さまざまな制限から研究計画にやや遅れを生じている。もうひとつの理由として、あらたな課題が浮上したこともあげられる。それは、通訳という仕事が生み出す交流とミスコミュニケーションの諸相についてさらに考察を深めるという課題である。当初の問題設定から派生したテーマではあるが、この問題についても研究を進めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も、ヴァンチュール=ドゥ=パラディとトートの二人を中心として、同時代の人々もふくめた近世・近代の地中海における人の移動と定着、経歴の比較などをおこなうとともに、東地中海にかんする地政学的な認識の形成を考察する。また上述の、通訳者が生み出す交流とミスコミュニケーションについても研究を本格化させる。そうした考察を総合し、近代の思潮へとつながる地理的意識の萌芽を読みとるという目標にむけて研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
昨年度も海外出張に制限があったこと、コロナ禍での本務校業務の増大などがあったため、使用額が少なくなった。本年度より計画的に支出を進める予定である。
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