2019 Fiscal Year Research-status Report
子どもの命と人権に関する地域史研究ー近世・近代・現代社会の連続面と断絶面を考える
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19K00961
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
大杉 由香 大東文化大学, スポーツ健康科学部, 教授 (60297083)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
沢山 美果子 岡山大学, 社会文化科学研究科, 客員研究員 (10154155)
飯田 直樹 一般財団法人大阪市文化財協会, 大阪歴史博物館, 学芸員 (10332404)
茂木 陽一 公益社団法人部落問題研究所, その他部局等, 研究員 (80200327)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 公共圏 / 警察社会事業 / 地方格差 / 災害 / 名望家 / 捨子 / 棄児 / 都市下層社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は研究全体を通して、近世と近代の子どもをめぐる政策の断絶、共同体の相互扶助や名望家等の善意に依拠した救済→中央集権政府の意向をある程度受けた行政と民間の連携による救済へと変化する状況および地域による捨子・棄児の取扱方の相違を明らかにした。また「近世・近代の日本における『行き倒れ』とその救済の歴史的特質の究明」(研究代表者:藤本清二郎)のメンバーとも意見交換を行い、移動する貧困者(行旅死亡人・病人)の立場からも子ども問題を議論した。なお、各メンバーの研究成果は下記の通りであった。 茂木陽一は「伊勢商人と捨て子」、三重短期大学地域問題研究所第61回地域問題研究交流集会報告、2020年3月9日等を通して、伊勢商人の丹波屋長谷川家と大和屋長井家の捨子への取扱が懇切な一方、松坂町内でも捨子を排斥する町の動向があったことを明らかにした。 沢山美果子は「乳のやりとり」、森明子編『ケアが生まれる場』を通して、産婦や赤子のために近隣の助力・助言、乳のやりとりが頻繁に行われた様子を明らかにし、当時は相互扶助なくして、いのちの砦としての家を維持・存続させることが難しかったこと等を実証した。 飯田直樹は「警察社会事業と武田愼治郎の感化実践」、『大阪歴史博物館研究紀要』18号、2020年3月等を通して、戦間期大阪における警察社会事業を担った武田愼治郎が警察退職後に運営した大阪府立修徳館と武田塾という2つの感化院に焦点を当て、武田塾での隣保事業が米騒動後の警察社会事業の隣保事業化という動向と通底していたことを指摘した。 大杉由香は飯田論文が大阪の貧困児童問題に焦点を当てたのに対し、同地の中間層の児童観・児童愛護のあり方に注目し、「戦間期から戦時期の都市部におけるインテリ層が運営した児童愛護NPOの実態」、『大東文化大学紀要. 社会科学』58号、2020年3月を公表した次第である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本来ならば、部落問題研究所(京都市)において2020年3月7日に「近世・近代の日本における『行き倒れ』とその救済の歴史的特質の究明」(研究代表者:藤本清二郎)のメンバーと共に科研共同報告会を実施予定であったが、コロナ禍で中止となった。しかし研究成果の相互理解のためには代替手段が必要と考え、3月26日までに本科研のメンバー全員が研究内容をメールで一斉公開し、30日までの間、意見交換会を実施した。発表内容は、茂木陽一「伊勢商人と捨子-幕末維新期の南勢地域における捨子事例の検討-」、沢山美果子「カネと公共圏からみた近世日本の捨て子たち」、飯田直樹「明治期孤児院と財団法人弘済会の創設」、大杉由香「明治期における棄児・幼弱者たちの救済実態―地域格差と災害の視点からの一考察―」で、各人の研究状況を共有すると同時に、各自の研究の相互連関性を確認した。 茂木報告は地方都市及びその周辺の捨子の実態に注目したのに対し、沢山報告は江戸期から明治にかけての大都市・農村の捨子のあり様を分析し、両研究は相互補完的な関係にあることが明示された。さらに飯田報告では明治期大阪において孤児問題に行政や民間が如何に対応したのかを明らかにしたのに対し、大杉報告では棄児・迷児に手厚い対応をしていた明治期東京の救済とそれ以外の地方の格差を統計的に明らかにし、近代の両研究に関しても相互補完的な視点と内容となっていることが確認できた。 また近世と近代の関係についても議論を行い、たとえば「保護されるべき」存在としての子ども観や棄児への倫理観が1890年代以降強まったとする沢山説について、大杉は限定的な話ではないかと提示し、両時代の架橋についても方向性が見えつつある。 だが今回はコロナ禍で3月に予定していた調査も実施できなかったため、「当初の計画以上に進展している」にはならず、「おおむね順調に進展している」との評価になった。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍で5月実施予定の研究会もできず、公文書館での調査も儘ならない中であるにもかかわらず、メンバーは既に各自で収集した史料に基づき、相互に連絡を取りつつ、できることで研究を進めている。茂木は伊勢神宮領の捨子について、以前、朝熊村の万日記から抽出した事例を基に分析を進め、沢山も近世日本の世間という公共空間に子どものいのちを委ねる意味を持っていた捨子について、具体的な史料に基づき、見直し作業を進めている。 他方で近代の貧困児童の出生や福祉に関する研究では、樋上惠美子氏(部落問題研究所研究員)を本科研の研究協力者として迎え、2020年10月24日・25日に開催予定の政治経済学・経済史学会の秋季学術大会(於:専修大学)のパネル・ディスカッションへの応募も行った(2020年5月1日済、タイトルは「近代日本において子どもはどう社会的に扱われてきたのかー家庭・地域の視点から命と人権の格差を考えるー」)。内容は下記の通りである。 樋上惠美子「1930年代の大阪の母と子の生活実態-なぜ大阪の死産率は改善しなかったのか-」 飯田直樹「都市下層社会における子どもと福祉」 大杉由香「戦前の統計等に見る児童救済の実態ー東京及び東京以外の全国の間に存在した救済格差問題」(今度は1930年代まで時代を拡張する予定) パネルの企画を通して、日本史のみならず、ドイツやインドの視点からの学術的コメントを受けながら、近代日本における児童救済の世界的特殊性を明らかにすることを企図しているが、このパネル後には、国際的視点も踏まえつつ、近世日本と近代日本の連続性と断絶性、近代と現代の間にある変化等を考察する研究会を設けたいと考えている。それに加え、「近世・近代の日本における『行き倒れ』とその救済の歴史的特質の究明」(研究代表者:藤本清二郎)との合同研究会も再度企画する予定で、将来的には出版も含めて検討中である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、主に茂木と大杉の研究状況によるものである。まず茂木の場合、昨年度は居住地の近辺調査に終始したため、旅費が生じなかったことによる。 また大杉については、2020年3月7日の部落問題研究所(京都市)での研究発表および3月14日に名古屋大学経済学部における福祉研究社会フォーラム(政治経済学・経済史学会主催の小研究会)での発表がコロナ禍で中止になったうえ、秋田市での調査もできなくなったため、大幅に旅費を中心に余剰が生じることになってしまった。 しかし余剰に関しては、2020年度から研究協力者として依頼する樋上惠美子氏への調査・研究旅費(大阪ー東京間)等に充てる予定である。もっともコロナ禍が長期化し、東京と京都、大阪といった直接の相互交流ができない場合は、戦前の貧困児童に関する史料の購入等を考えているところである。
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Research Products
(12 results)