2020 Fiscal Year Research-status Report
子どもの命と人権に関する地域史研究ー近世・近代・現代社会の連続面と断絶面を考える
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19K00961
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
大杉 由香 大東文化大学, スポーツ健康科学部, 教授 (60297083)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
沢山 美果子 岡山大学, 社会文化科学研究科, 客員研究員 (10154155)
飯田 直樹 地方独立行政法人大阪市博物館機構(大阪市立美術館、大阪市立自然史博物館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪, 地方独立行政法人大阪市博物館機構・大阪歴史博物館, 学芸員 (10332404)
茂木 陽一 公益社団法人部落問題研究所, その他部局等, 研究員 (80200327)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 公共圏 / 警察社会事業 / 地方格差 / 災害 / 名望家 / 捨子 / 棄児 / 都市下層社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に関しても、各自が問題関心に従い、フィールド調査が可能な地域で、近世および近代の子どもをめぐる社会環境の変化に焦点を当てた研究を行った。なお各自の研究を通して明らかになったのは、近世から近代にかけての救済システムは、いきなり中央集権的なシステムに移行したのではなく、近世的なものを暫く孕みながら、次第に近代的なシステムに変化していったことであった。たとえば茂木陽一「三野村利左衛門と三井組育児方について」(2021年3月23日、科研共同報告会)によれば、1875年頃から三野村を中心に三井組では育児方を設け、商人的な児童保護活動が始まり、かつ近世から続く他の商人資本にも参加を求めた。この活動は三野村の死で発展しなかったとはいえ、当該活動は、養育院のような公的保護施設と福田会に見られる宗教的保護施設との連携も見られ、三野村没後、三井組で救済された者の一部はこれらの施設に保護された。その関連で言えば、大杉由香「明治期における棄児・幼弱者たちの処遇と救済の実態」(『環境創造』27号、大東文化大学環境創造学会、2021年3月)でも、キリスト教団体等が棄児や孤児の救済に本格的に乗り出す明治後期においてすら、棄児や孤児への偏見(家族を失い養護を求めて転々とする彼らを物乞いと変わらないとする社会での見方)は前近代から殆ど変わっていないかあるいはひどくなった状態が明らかになった。 この他には沢山美果子が近世の性と子どもの視点から今までの研究を集大成させ、『性から読む江戸時代』を岩波新書の形で発刊し、日常生活の中での性の営みを家や村に残された文書群や日記から浮き彫りにした。さらに飯田直樹は、先行研究で弘済会の創設と孤児対策との関連があまり注目されていなかったことから、その点に焦点を当て、「明治期孤児院と財団法人弘済会の創設」(『大阪歴史博物館研究紀要』19号、2021年3月)を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回もコロナ禍の中で、なかなかフィールド調査に行くことが儘ならず、仮に文書館等に赴いても閲覧時間と冊数が制限される等の問題があり、その意味では各自思うように研究を進めるのが難しい状態にあった。さらに2020年度は前半に開催されるはずであった諸学会が後半にzoomで後ろ倒しで行われた関係で、科研の研究会を実施するのが難しい状態にあった。しかしそれでも2021年3月23日にzoomで「近世・近代の日本における『行き倒れ』とその救済の歴史的特質の究明」(研究代表者:藤本清二郎、部落問題研究所、京都)のメンバーと合同で科研共同報告会を開催し、意見交換を行った。発表内容は、沢山美果子「明治初期岡山県の堕胎圧殺禁止衆議書と棄児院構想をめぐって―岡山県吏野崎家資料にみる―」、茂木陽一「三野村利左衛門と三井組育児方について」飯田直樹「町共同体の解体と捨て子養育の変容―孤児院の設立と相互扶助の行方―」、大杉由香「近代日本の災害時における子どもへの対応―問題はどう社会で受けとめられたのか―」で、各人の研究状況を確認しつつ、茂木・飯田両報告をはじめとした、研究の相互関連性も改めて見出した。また沢山報告では近世は孤児院不在で近代移行期も定着しないという通説に実証的批判を行い、大杉報告でも災害時に向けられた子どもへの視線が如何なるものであったか等、各自が先行研究に一石を投じる研究を進めると同時に、近世から近代への連続と断絶に関する考察を進めていることが確認できた。しかしコロナ禍がなければもう少し他の地域でのフィールド調査もできたと考えられ、かつ地域比較の視点からより研究に深みが出たと思われること、さらにzoomでは意見交換は一応できるとはいえ、心身の疲労等から長時間の研究会には限界があったことから、「当初の計画以上に進展している」にはならず、「おおむね順調に進展している」との評価となった。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍で各自が調査も儘ならない状況ではあるが、メンバーは各自で何とか収集した史料に基づき、可能な限りできることを進めるようにしている。茂木陽一は三野村利左衛門が設立した三井組の育児方に関する悉皆調査を進めようとしており、沢山美果子も明治初期の岡山県の棄児院構想の研究を継続する予定である。 また近代の孤児・幼弱者に関する研究では、樋上恵美子(部落問題研究所)を研究協力者に迎え、かつ飯田・樋上・大杉は、石原俊時(東京大学)と福澤直樹(名古屋大学)が中心になって編集し(大杉も編者として参加予定)、再来年度の出版を目指す『戦間期日本とヨーロッパにおける「子どもの権利」(仮題)』に論文を投稿する方向でも検討しており、日本の戦間期と西欧との比較検討にも入りたいと考えている(すでに飯田直樹は出版に向けての研究会で報告済、樋上恵美子は2021年4月に報告)。その内容は以下の通りである。 飯田直樹「日本における社会国家化と児童福祉―大阪における小河滋次郞の思想と行動」 樋上恵美子「大阪市立児童相談所から大阪市立児童教育相談所へ」 大杉由香「戦間期東京の社会事業の視点から見た児童問題と貧困の実態―何故、子どもは大人の「道具」的扱いを受け続けたのか(仮題)」 なお、2021年度は本科研の最後の年でもあるので、11月位に1度過去の研究を持ち寄りながら全体として鳥瞰できることは何かを研究会を通して検討し、来年3月には、近世行き倒れの研究に従事していた藤本科研の一部メンバーを招聘した研究会も考えているところである。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、いくつかある。まず茂木陽一について言えば、コロナ禍によってフィールド調査を進めるのに困難が生じたため。旅費がかなり浮いたことによる。 さらに大杉に関しては、この科研で研究協力者としてお願いした樋上恵美子に対し、東京で当初計画していた研究会に参加して貰うべく、居住地の大阪からの上京費用を数回分用意していたのが、コロナ禍のために一切実現できなかったことが影響している。また大杉自身も大阪や秋田でフィールド調査を進めるための旅費として、科研費を使う予定でいたが、それは実現できない状況になってしまった。しかしコロナ禍が今後も続くことを考え、2021年度は旅費による支出はあまり考えず、昨年度残金と今年度科研費も合わせた金額で、不二出版の資料集『東京市養育院月報』全30巻、別冊1等の購入を行う予定である。
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Research Products
(15 results)