2022 Fiscal Year Research-status Report
前近代の災害復興に関する史料論的・学際的研究―東海地震の内陸部被害を対象に―
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19K00962
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
西川 広平 中央大学, 文学部, 教授 (60574150)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 自然災害 / 東海地震 / 日本中世史 / 日本近世史 / 内陸地域 / 災害復興 / 歴史学 / 古文書 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は新型コロナウィルス感染症蔓延の影響により、当初予定していた史料調査の全てを実施することはできなかったが、2022年8月21・22日に和歌山県立文書館、並びに印定寺(和歌山県日高郡印南町)、深専寺(同有田郡湯浅町)を訪問し、宝永4年(1707)10月に発生した宝永南海地震および嘉永7年(1854)11月に発生した安政南海地震に際して発生した津波災害の供養碑や、関連する古文書を調査した。 また11月4・5日には、徳島県立文書館、並びに浅川観音庵(徳島県海部郡海陽町)を訪問し、宝永南海地震の被害を伝える正徳2年(1712)7月銘「浅川観音庵地蔵尊台石」や安政南海地震に関する古文書を調査した。 さらに2023年3月23・24日には、椿八幡神社(徳島県阿南市)並びに海陽町鞆浦地区を訪問し、弘化3年(1846)9月2日の大風と安政南海地震の被害状況を記した椿八幡神社常夜灯や、慶長9年12月(1605)に発生した慶長南海地震および宝永南海地震の供養碑である大岩慶長・宝永地震津波碑を調査した。 この結果、津波供養碑の立地は、集落の拠点となった寺院や神社(椿八幡神社・浅川観音庵)、また被害の最前線である浜辺(大岩慶長・宝永地震津波碑)に加えて、熊野参詣の街道沿いのように人々が往来する場(深専寺)にも設置されており、これらにより、地域の内外に向けて広く被害状況の周知が図られたことが判明した。 また、文献史料の調査から、紀伊水道を挟んで向かい合う、阿波(徳島県)・紀伊(和歌山県)両国における安政南海地震の被害状況を具体的に把握することができた。 今後、調査において撮影した古文書の解読を進めることにより、地震・津波災害の状況を考古と文献の双方の史料から考察していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2022年度は、和歌山・徳島県内における中世・近世の津波災害に関わる石造物や、関連する古文書の調査等を実施することができた。 この一方、新型コロナウィルス感染症蔓延の影響が引き続き生じており、『一宮浅間宮帳』等の当初予定していた史料調査を実施することができなかった。 また、研究協力者とは、逐次連絡を取り合っているものの、同様の理由により各所属先から出張の許可が出ない状況であり、全員が揃っての調査や研究会を実施できず、少人数により個別に対応した。 また、現在、明応7年(1498)に発生した明応東海地震の甲斐(山梨県)・駿河(静岡県)両国における被害を記した『日海記』について、2022年度に新たに写真撮影した古文書とともに解読を進めている最中である。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルス感染症蔓延の影響により、これまで調査の許可が下りなかった文献史料を中心に、撮影と解読作業を進める。この一方、2021・2022年度の調査過程で、これまで把握していなかったものの、新たに調査できる見込みのある文献史料を確認しており、可能であれば、それを加えて調査を行う。 一方、地震・津波災害に関する石造物の研究については、これまでに和歌山・徳島両県域で調査を進めたので、今後は山梨・静岡両県域で調査を行い、それらの年代や形態、石材の材質とともに、立地状況等を比較していく予定である。 最終的には、石造物の調査結果と併せて報告書を作成し、これまでの研究成果をまとめて社会に還元することを計画している。
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Causes of Carryover |
2022年度は、新型コロナウィルス感染症蔓延の影響により、2020、2021年度に引き続き、当初予定していた史料調査を実施できず、また調査で得られたデータの整理を行う十分な機会がなかったため、旅費や人件費・謝金を中心に次年度使用額が発生した。 2023年度は、研究期間の延長が認められたため、これまでに未消化であった調査に加えて新規の調査を実施できるよう調整し、可能な限り研究協力者の参加を促すとともに、集積した文献史料の解読作業の促進のために人件費の支出を検討する。 これらを通して、研究計画のこれまでの遅れを取り戻すとともに研究成果の集約を行い、その成果を社会に還元するため、報告書の刊行に要する経費を使用していきたい。
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