2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00969
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Research Institution | The Niigata Prefectural Museum Of History |
Principal Investigator |
渡部 浩二 新潟県立歴史博物館, その他部局等, 研究員 (20373475)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 近世 / 産業 / 絵巻 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉱山絵巻については、複数の佐渡金銀山絵巻を調査し、それらを1730年代頃から100年以上にわたって描き継がれた佐渡金銀山絵巻群の中に位置づけることを試みた。とりわけ、天明2年(1782)に佐渡金銀山に導入された排水(揚水)器具である「阿蘭陀水突道具」が描かえた絵巻の制作年代や制作由来などについて検討した。捕鯨絵巻については、紀州地方の絵巻が捕獲物の種類と形に視点を置いて作られ、継承されていったことを複数の史料から検証した。製茶絵巻については、江戸~明治期にかけて制作された複数の製茶絵巻を実見するとともに、製茶図制作の背景については、中国から流入し、室町時代頃から画題として定着した「耕織図」の一派生形として始まった可能性や、江戸時代に宇治の茶摘みが名所絵として描かれるようになり、次第に製茶工程を描くようになったことなどが研究史で指摘されていることを確認した。天保15年(1844)に津和野藩御絵師であった狩野派の画家、岡野洞山によって描かれた「製楮図鑑」は、石州(島根県)における紙漉きの工程が詳細に描写されたものであった。制作の背景は明確でないが、津和野藩では紙の専売制を実施しており、幕府や藩の殖産興業政策と関連する産業絵巻制作事情が想起された。 また、出羽国村山地方の紅花絵巻、農耕絵巻の画像データを入手し、全国各地の特産物の一連の生産工程が近世後期頃に絵巻化されている事例を確認した。 これまでの研究では、産業絵巻のなかには、宝暦4年(1754)『日本山海名物図会』や寛政11年(1799)『日本山海名産図会』などの先行出版物からの影響が見受けられるものがあることを確認していた。今年度は、その一方で、産業絵巻(佐渡金銀山絵巻)の構図が、屏風や扇面などの構図に影響を与えた事例があることを新出の史料から確認するなど、産業絵巻の与えた文化的影響についても検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
予定していた史料の調査・撮影や研究会の開催が新型コロナウィルス流行の影響で制限されたため。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで所在を把握しながらも実施できなかった絵巻史料の調査・撮影を進める。これと並行して、それらの絵巻の所蔵者(旧蔵者)、作者、制作時期、制作目的などの整理を進め、近世の産業絵巻群全体のなかに位置づけ、近世産業絵巻群の構造を総合的に検討する。データの整理にあたっては、絵巻化されなかった(されにくかった)産業についても整理し、近世産業の史料化の契機・経緯やその背景についても引き続き検討を進める。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス流行の影響により、予定していた史料の調査・撮影や研究会の開催が制限され、使用残金が生じた。今年度できなかった調査・撮影を実施したり、調査報告書刊行などの経費として活用する予定である。
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