2021 Fiscal Year Research-status Report
日本近世における諸宗教・諸宗派間関係の秩序構造とその変容
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19K00976
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
小林 准士 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 教授 (80294354)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 浄土真宗 / 日蓮宗 / 折伏 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年2月に『日本近世の宗教秩序―浄土真宗の宗旨をめぐる紛争―』(塙書房)を刊行した。この著書のうち序章と終章、第7章「松江城下の町人新屋太助の真宗信仰」は新稿である。第7章の論文は本科研にもとづき昨年度中に研究を進め執筆したものを公表したもので、日記をもとに新屋太助が真宗僧侶の法談を頻繁に聴聞していたこと、しかし太助は深く観音を信仰し現世利益を求める祈願を繰り返していたことなどを明らかにしている。また、終章では肥後国天草において直往(応とも)という僧侶(のち俗人)が説いた真宗の異義が18世紀末から19世紀にかけて広がっていたことを、『肥後国諸記』(西本願寺文書)に基づいて明らかにし、大橋幸泰による先行研究と関連付け検討した。 それから日蓮宗の学僧間の論争について、昨年度検討を進めた日荘『末法要行録』が批判の対象とした日透『護法得宜論』(明和8年序)の分析を今年度は行った。日透は末法五百年の後は日蓮の四箇格言に見られるような折伏(強折)は不要である旨を説き、その理由として日蓮の教えがある程度広まっていること、日蓮在世時と当世では時代的状況が異なることなどを論拠として挙げていることが明らかにした。合わせて日荘『末法要行録』における日透への反論も検討し、両者の間で何が論点となっていて、互いの意見が対立した理由について整理を行った。 また、石見国大田南村妙光寺日荘と同稲用村浄土寺教恩との争論について、西本願寺文書その他の史料に基づき経緯の究明を進めた。妙光寺は日蓮宗、浄土寺は浄土真宗の寺院である。争論の発端は日荘が「念仏無間」との言辞を流布させたことにあった。在家信者も巻き込んだ争論となっていることも明らかにできたので、今後は分析をさらに進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
残り期間が1年間となった現在時点で、日蓮宗内における学僧間の論争、石見国における日蓮宗僧日荘が関係した浄土真宗との争論や、彼と神職との争論については史料の検討がある程度進み、事実関係などを明らかにしてきている。特に後者の神職との争論に関わる主要な史料については翻刻をほぼ終わっている。しかし英智院日宣の『四箇名言論』『甲府神道問答記』の分析が依然としてできていない。 また、真宗教団における三業惑乱に関する異安心事件の検討については、石見国邇摩郡西田村瑞泉寺文書の調査が、いまだ新型コロナウィルス流行が続いていることから思うように進んでいない。しかし、功存『願生帰命弁』の三業帰命説を批判した学僧の著述の収集を進めており、論争における論点の整理や、論争及び争論の背景についての検討も少しずつ行っている。さらにこの点に関係した先行研究の整理も進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は最終年度であるが、石見国邇摩郡西田村瑞泉寺文書については進捗していないので、できるだけ早く再開する。新型コロナウィルスの流行によって制約があり、今年度も進まない場合には、期間を延長して行うことも検討する。 功存『願生帰命弁』をめぐる学僧間の論争について、関連する論争書、史料を引き続き収集し読み進める。特に学説の背景にある、真宗僧侶による門徒に対する具体的な教化のありようについて関連史料を分析し考察を深めていく。 英智院日宣の『四箇名言論』と『甲府神道問答記』を読み進め、関連する書籍、史料を収集して分析を本格化させる。神社、神道、神職に対する態度や向き合い方が浄土真宗の僧侶などとどのように異なっていたのかについて、日蓮宗の特徴を明らかにすることをめざす。
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Research Products
(1 results)