2021 Fiscal Year Research-status Report
植民地統治下の台湾の「日常」と「帝国」日本-植民地統治の影響の深度に関する考察-
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19K00985
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
松田 京子 南山大学, 人文学部, 教授 (20283707)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 台湾先住民 / 「内地」観光 / 勢力者 / 先覚者 / 五箇年計画理蕃事業 / 総力戦体制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「植民地の日常」の中に働く微細な権力作用や、植民地の日常生活の「場」におけるヘゲモニーのあり方について、特に植民地住民の階層性に注意を払いながら分析することを通じて、植民地統治が植民地社会および植民地住民に与えた影響の深度を考察するものである。 具体的には2021年度は台湾先住民を対象とした「内地」観光施策に焦点をあて、1897年から1941年までという長期にわたって実施された「内地」観光という施策の具体像とその変化、および先住民社会の「日常」に与えた影響について、『理蕃誌稿』をはじめ『台湾警察協会雑誌』『台湾警察時報』『理蕃の友』等に掲載された関連記事、および「内地」観光を報じた日本「内地」の新聞記事等を中心に分析を進めた。 その結果、(1)台湾先住民の「内地」観光はその目的と特徴から、①初期②1910年代前半(1911年・1912年)③「自費」観光への転換期(1928年・1929年)④霧社事件以降⑤総力戦体制下と5つの時期区分ができること、(2)植民地政府は①~⑤のすべての時期において、「内地」観光の経験が観光団に加わった先住民を通じて、台湾先住民社会の日常生活にいかなる影響を及ぼすのかに強い注意を払っていたこと、(3)「内地」観光の対象者は①②の時期は先住民社会の旧来からの有力者である「勢力者」層が、③~⑤の時期は「先覚者」と呼ばれた新エリート層が中心であったこと、(4)②の時期の「内地」観光は当該期に実施されていた「五箇年計画理蕃事業」と密接に関連すること、(5)⑤の時期の「内地」観光で行われた軍事施設の見学は、①②の時期の集中的に行われた軍事施設の見学とは、台湾先住民に対して持つ意味が大きく変化すること等を明らかにした。 このような成果については、2022年3月開催の台湾史研究会3月例会で研究発表を行った。また研究論文として公刊すべく執筆を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では、2020年度・2021年度は、台湾の漢民族系住民の「日常」に関する植民地統治政策の影響について、漢民族系住民が生活する具体的な街庄に焦点をあてて考察することを研究テーマとしていたが、この研究テーマを探究するためには、台湾の図書館等で所蔵されている役場文書をはじめとした地域社会の状況に関する資料の調査と収集を不可欠なものとして計画していた。しかし新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年度に引き続き2021年度も台湾調査を断念せざるを得なかった。 そのため2021年度は、当初の研究計画では2022年度に実施を予定していた研究テーマに関する作業と考察を前倒しで進めるとともに、上述の研究テーマについては基礎的な作業を行うこととなり、論文執筆が予定通りには進まなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度の前半は、まずは昨年度に引き続き、台湾先住民を対象とした「内地」観光施策について考察を深め、その成果を研究論文としてまとめて公刊することを第一課題とする。その考察を通じて、植民地政府と台湾先住民社会の間で揺れ動く、「先覚者」と呼ばれた先住民青年エリート層の「日常」を明らかにし、植民地統治が先住民エリート層に与えた影響を、1910年~1930年代を中心に解明していく予定である。 さらに、当時「蕃社」と呼ばれた台湾先住民の集落に焦点をあて、1920年代から1930年代にかけての「蕃社」の「日常」の変化を詳細に解明していき、その変化に「内地」観光施策をはじめとした植民地政府からの働きかけが、具体的にどのように関連するのかを探究することを通じて、植民地統治施策が、先住民社会にいかなる深度の影響を与えたのかも明らかにしていく。 2022年度の後半は、1920年代初頭から1930年代後半にかけての台湾の街庄における諸動向に焦点をあて、漢民族系住民が生活する地域社会の「日常」に、植民地統治がどのような影響を与えていくのかを解明する。この研究テーマは、当初の研究計画では2020年度~2021年度に実施する予定であったが、このテーマを深めるには「台北州海山郡鶯歌庄」の役場文書「台北州档案」(台湾・新北市図書館所蔵)等の調査が不可欠であるため、新型コロナウイルス感染症の影響で台湾への渡航が困難であった2020年度・2021年度は、当該研究テーマについては基礎的作業を、当初の計画より前倒しで進めた他の研究テーマに関する作業と並行して行ってきた。2022年度は既入手の関連資料の分析を進めつつ、台湾への調査旅行が可能となったら速やかに台湾に渡航し「台北州档案」の調査を行いたい。加えて「台湾総督府公文類纂」の中の「鶯歌庄」関連文書を調査し、重要文書については複写にて収集する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響で、緊急事態宣言の発出中など県をまたいでの移動自粛が求められたため、東京の国立国会図書館等への資料調査の実施が困難となった。さらに研究発表を行った台湾史研究会3月例会についても、大阪府吹田市の関西大学を会場としつつリモート併用開催であったため、まん延防止等重点措置の解除直後という状況等を勘案して長距離の移動を避けリモートで発表を行った。そのため国内旅費に次年度使用額が生じた。 また本研究課題にとっては、台湾への調査旅行が大変重要であるが、2021年度も台湾への渡航は困難な状況が続いたため、当初予定していた使用計画と大幅に異なることとなり、外国旅費についても次年度使用額が生じた。さらに台湾での文献調査に基づく資料複写費・資料整理用文具、および図書購入用設備備品費についても、図書の一部は台湾現地での購入を予定していたため、次年度使用額が生じた。 2022年度はぜひ台湾への調査旅行をできれば複数回実施し、これまでやや遅れている資料調査・収集および関連図書購入を集中して行う予定である。さらに国内での資料調査旅行、学会での研究発表旅行も積極的に実施する予定であるため、旅費として主に使用する計画を立てている。
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Research Products
(1 results)