2021 Fiscal Year Research-status Report
米軍統治下の沖縄における占領の社会史と秩序意識に関する基礎研究
Project/Area Number |
19K00989
|
Research Institution | Okinawa University |
Principal Investigator |
若林 千代 沖縄大学, 経法商学部, 教授 (30322457)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金 美恵 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (00774142)
森川 恭剛 琉球大学, 人文社会学部, 教授 (20274417)
親川 裕子 琉球大学, 人文社会学部, 客員研究員 (30827291)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 沖縄 / 米軍占領 / 社会史 / 秩序意識 / 冷戦 / 刑事司法 / 住民管理 / 人権 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、2019年度と2020年度同様、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う制限により、予定していた米国国立公文書館や米国議会図書館、プリンストン大学他における日本未公開公文書の調査が不可能となったため、計画の見直しをおこない、オンラインによって収集・閲覧が可能な資料を中心に予備調査をおこなった。いくつか課題は残されているが、新型コロナウイルスの感染拡大のなかでありながら、研究に進捗が見られた。 2021年度の研究実績は、まず、資料の検証としては、琉球大学所蔵戦後資料(刑事司法関係)、また沖縄県公文書館や沖縄県立図書館、沖縄大学図書館新崎盛暉文庫、東京大学図書館、国立国会図書館等の所蔵資料の調査をおこない、とくに社会的に「周辺化」された領域として、住民が対象となった刑事事件や冷戦的反共主義による政治事件、「国際児」、外国人等に注目して、米国公文書および琉球列島米国民政府公文書の検証と収集をおこなった。具体的には琉球政府の法務部、出入国管理局、裁判所、琉球列島米国民政府渉外局等の司法の住民管理の記録、南方援護事務局や裁判記録等の収集整理を続けている。同時に、関連する聞き取り調査を継続している。 次に、研究代表者と研究分担者は、共同研究会を開催し、社会変容と制度の変化が人びとの秩序意識に与えた影響の検証をおこなった。その際、研究代表者と研究分担者は、それぞれ、沖縄現代史(政治史・社会史)、刑法学(戦後沖縄刑事法制史)、沖縄のジェンダー/女性や国際人権論、東アジア現代史等の観点から、意見交換をおこなった。また、売春と刑事法、公衆衛生と秩序意識、外国人の地位と処遇等について、成果の一部を論文や口頭発表によって発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、2020年度同様、依然として新型コロナウイルスの感染拡大という事態の下であったが、、研究代表者と研究分担者は、いくつかの研究計画の修正をおこないながら、研究を継続していくことができた。 一つめは、オンライン・ツールを通じて、継続的な共同研究会をおこない、各自の調査研究について共有し、互いの進捗状況を確認するとともに、共同研究を通じて、新たな知見を得ることができた。研究代表者(若林)は、朝鮮戦争が与えた秩序意識への影響について、研究分担者(親川)は国際福祉事務所の歴史的検証を通じて、占領期以来の女性の人権に対する「複合差別」について、研究分担者(金)は、占領期の外国人の法的地位について、外務省記録を中心に考察した。また、2021年度は、研究分担者(森川)が準備してきた刑事司法関係の裁判記録について、デジタル化と翻訳作業が進んだため、個別の課題、たとえば売買春に関連する裁判や政治裁判等を中心に、仮訳版に基づき、検証をおこなった。これによって刑事司法の問題点だけでなく、その資料から見える具体的な社会史的考察について、意見交換をおこなった。これらの共同研究については、一部を論文や研究ノート、口頭発表として公表した。 二つめに、米国公文書や米軍関係の資料他の日本未公開公文書や私文書等の調査について、オンライン調査によるフォローアップをおこなった。2021年度に予定していた調査は、新型コロナウイルスの感染拡大により、米国の入国制限がおこなわれ、不可能となった。そのため、調査収集する資料の計画を若干変更し、オンラインによる公開・閲覧可能な資料等について、予備調査をおこなった。そして、調査・閲覧が可能なものを中心に把握し、2021年度に向けて、資料整理を準備した。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、依然として新型コロナウイルスの感染が引き続き拡大傾向のため、実際に資料館を訪問しての調査研究や共同研究には限界があった。とくに北米での調査は、徐々に制限解除が進んでいるが、海外での調査には困難さがあった。そのため、2022年度の一カ年分の延長をおこなった。 2022年度については、2021年度までの成果と、そうした研究をとりまく条件を踏まえて、新型コロナウイルスの感染拡大によって実施できなかった資料の検証をおこなう。沖縄県公文書館および琉球大学図書館、沖縄大学図書館新崎盛暉文庫、国立国会図書館、外交史料館等において、米国公文書および琉球列島米国民政府の公文書、琉球政府文書等の検証と収集を継続する。具体的には、琉球列島米国民政府文書や琉球政府の法務部、琉球列島米国民政府公安局や渉外局をはじめとする司法や行政の住民管理の諸制度、外交文書、裁判に関する公文書等である。 このうち、公開公文書については、必要に応じてデジタル化処理をおこなう。米国国立公文書館や米国議会図書館、プリンストン大学他における日本未公開文書の調査については、新型コロナウイルス感染症の感染拡大と収束の状況を注視しつつ、また、米国への入国制限、移動制限などの状況を注視しつつ、可能な機会をできるだけ見定め、実施可能な場合には進めたい。困難な場合には、引き続きオンラインでの収集に努める。 同時に、共同研究会を引き続き開催し、社会変容と制度の変化が人びとの秩序意識に与えた影響について、資料収集の進捗状況を確認しつつ、意見交換をおこなう。その際、新型コロナウイルス感染症感染拡大防止に配慮し、オンラインの会議ツール等を利用しつつ進める。また、関連する国内外の学術学会および研究集会のうち、オンライン等での口頭発表が可能な場合には、積極的に参加し、それが困難な場合には、共同研究を先に進めていく。
|
Causes of Carryover |
本研究は、資料の検証としては、国内の資料館、韓国外交史料館と同時に、これらの資料館では入手の困難な、日本未公開の占領側の公文書等の資料について、米国での調査を計画し、準備をおこなっていた。 しかし、2021年度は、2019年度や2020年度と同じく、予定していた米国国立公文書館、米国国立人事記録センター、米国議会図書館、プリンストン大学他における日本未公開公文書の調査については、新型コロナウイルス感染症の日本における感染拡大、また、米国での感染拡大と日本からの入国制限がおこなわれたため、年度内の実施を断念せざるを得なかった。また、終息を見込んで2022年1月から3月のあいだの渡米を計画したが、オミクロン株の蔓延により、そのため、準備していた旅費について使用せず、2021年度分として繰り越した。 今後、本研究では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大と収束の状況を注視しつつ、日本国内で入手、もしくはオンラインで入手可能な資料のうち、重要な公開公文書については、必要に応じてデジタル化処理おこない、研究基盤の整備に努める。同時に、共同研究会を引き続き開催し、社会変容と制度の変化が人びとの秩序意識に与えた影響について、資料収集の進捗状況を確認しつつ、意見交換をおこなう。
|