2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K01010
|
Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
Cryns Frederik 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (90370139)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 日蘭関係 / 平戸オランダ商館 / オランダ東インド会社 / 日本人傭兵 / 松浦鎮信 / 徳川家康 |
Outline of Annual Research Achievements |
①本研究の対象となっている平戸オランダ商館の初期の活動状況について解明するために、令和元年度においては、オランダ東インド会社文書に精通しているライデン大学の専門家を招聘し、1610年代の平戸オランダ商館文書の解読を共同で行った。さらに、同専門家と共同で英語論文を執筆・刊行した。この論文では、オランダ東インド会社文書と幕府側文書の性質を比較した上で、日本史におけるオランダ側史料の意義について論じた。 ②基礎的研究史料としての共有情報を構築していくために、平戸オランダ商館文書のうちの重要な部分の和訳を、オランダ古文書に精通しているクレインス桂子の協力を得て、進め、累計400頁分の和訳が完成した。 ③平戸オランダ商館がどのような国際環境の下でどのように成立したかの課題に取り組み、商館設立当時のヨーロッパおよびアジアにおける国際環境についての基礎的調査を行った。特に、平戸オランダ商館の設立経緯について解明するために、オランダ東インド会社が日本への渡航に踏み切る以前にオランダに伝わった平戸情報のある史料やハーグ国立文書館に保管されている関連文書を調査し、オランダ人に対する平戸藩主・松浦鎮信による誘致活動およびパタニ商館による情報伝達が重要な要因であったことを明らかにした。同研究成果については、論文として『平戸紀要』に投稿した。 ④平戸オランダ商館の初期の活動における幕府との関わり方について、家康の外交政策を踏まえて、幕府に対する武器の供給およびオランダ人による日本人傭兵の雇用、さらにティドーレにおけるポルトガル人との戦いにおけるオランダ人による日本人傭兵の活用について関連文書を調査分析した。その研究成果は令和2年度にNHKで放送予定である。 ⑤引き続き、オランダ東インド会社の上層部の対日本戦略がどのようなものだったかを解明すべく、関連史料を網羅的に調査中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の初年度において、平戸オランダ商館関連文書のうち、平戸オランダ商館の設立および初期の活動に関する史料を重点的に和訳してきた。和訳を完了した部分はすでに累計400頁ほどに達しており、商館設立と初期活動に関わる史料の和訳を基礎的研究史料として1~2年後に刊行できる見通しがついた。 当初の計画では、(1)「平戸オランダ商館はどのような国際環境の下でどのように成立したか」、(2)「近世初期において日本とオランダとの間にどのような関係が構築され、どのように変化していったか」、(3)「日蘭貿易において具体的にどのような商業活動が行われたか」という3つの課題を解明しようとしている。このうち、令和元年度においては、「平戸オランダ商館はどのような国際環境の下でどのように成立したか」という課題に主に取り組んだ。平戸オランダ商館の設立の経緯についてはすでに1本の論文を書き上げ、『平戸紀要』に投稿した。 現在は平戸を戦略拠点として位置づけることができるかどうかという論点について調査中である。この論点についても、査読誌に投稿すべく論文執筆を進めており、間もなく完成予定である。この課題の解明を終えることができたら、二番目の課題に順調に移行することができる。 このように、本研究の進捗は、当初の研究計画に照らし合わせて、おおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和2年度以降も引き続き、平戸オランダ商館関連文書の翻刻および和訳に励み、刊行を目指す。令和元年度においては、商館の設立および初期の活動に関する史料の和訳に集中したのに対して、令和2年度は主に商務総監(1618年より総督)ヤン・ピーテルセン・クーンと初代ならびに第三代平戸オランダ商館長ジャック・スペックスとの文通の和訳を中心に行う予定である。これらの一通あたりが長文に及ぶ文通においては、アジアにおける日本の位置づけが示されている記述も多くみられ、オランダ東インド会社と幕府との初期の関わり方についての解明に重要な史料である。なお、史料の解読を進めるにあたって、令和元年度と同様に、オランダ東インド会社文書に精通しているライデン大学の専門家を招聘し、共同で作業を行う。 クーンとスペックスとの文通の和訳作業と並行して、令和2年度においては、当時のヨーロッパおよびアジアの国際環境についてより深く掘り下げた分析を行うために、流動性の高い1610年代において平戸オランダ商館を通じて幕府との初期の関係がいかに構築されたかという課題に取り組む。特に、1617年に起こったオランダ船団の長崎入港事件を軸に日本近海におけるオランダとポルトガルとの間の緊張関係およびそれに対する幕府の対応について調査研究を行う。
|
Research Products
(2 results)