2020 Fiscal Year Research-status Report
朝鮮半島の内水面環境と水産資源の利用・採捕-朝鮮時代~近代を中心に
Project/Area Number |
19K01019
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
森平 雅彦 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (50345245)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 朝鮮史 / 環境史 / 内水面環境 / 淡水魚 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はコロナ禍のため海外出張が不可能になり、国内の資料所蔵機関への訪問も制約され、所属機関外で調査活動を展開することが困難となった。そこで昨年度までの研究成果の公開作業に軸足をおき、学術誌論文として「朝鮮時代における食用淡水魚種の概観」(『史淵』158、2021年3月)および「朝鮮前期の慶尚道における内水面漁梁の分布:『慶尚道続撰地理誌』の記録から」(『年報朝鮮学』23、刊行予定)を完成させ、また朝鮮史研究会関東部会例会(2021年3月)でのシンポジウム〈朝鮮環境史の創成にむけた河川の管理・利用に関する総合的研究〉において「朝鮮中期の洛東江上流域における「淡水魚生活」:礼安士族の事例を中心に」を口頭発表した。 一方、昨年度に収集した資料の分析として、16世紀に洛東江中流の星州で暮らした士人李文ケン(木ヘンに建)の日記『黙斎日記』をとりあげた。『黙斎日記』は著者が地域内および近隣諸地域の人びととの間で行った贈答に関する記録が豊富であり、そこに淡水魚が多数登場する。その統計的分析を通じて、『渓巌日録』で確認されたようなアユを中心として採捕と利用が行われた上流域とは異なり、中流域においてはフナ、コウライニゴイなどコイ科魚類の比重が高まるという利用魚種の傾向が明らかになった。 さらに朝鮮時代の史書・個人文集から、アユ、フナ、ウグイという食用淡水魚の主要種ごとに関係記事を集めて資料集を作成した。 近代史の関係資料収集も開始した。植民地期の朝鮮各道の水産試験場事業報告書を一部集めたが、そこにワカサギの養殖実験に関するデータを見いだした。朝鮮半島のワカサギは本来東北沿海部に生息するのみだったが、現在全国の貯水池に広く分布する。それは植民地期の移植事業にはじまるとされるが、その過程を実証的に追跡する足がかりが得られたことになる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍の影響により他機関の所蔵資料を利用する形での新規の調査活動がほとんど展開できなかった。この点は大きな遅滞であるが、かわりに研究成果の公開に重点をおくことで、これを例年以上のペースで進捗させることができた。口頭発表の論文化にもおおむね見通しがついている。また収集済みの資料分析も進展したほか、学内蔵書やwebデータベースを利用する、所属機関外への出張を伴わない形での資料収集にも一定の成果が得られた。 以上から、コロナ禍にあってという但し書き付きではあるが、総合的にはおおむね順調な進展があったものとみなすことができる。
|
Strategy for Future Research Activity |
朝鮮時代の関する資料収集と分析に一定の目処をつけ、近代史の関係資料収集、分析を強化していく。具体的には、近代における魚類学・水産学の調査・研究データ、新聞・雑誌記事、料理書、個人日記などが主な対象となる。 遺憾ながら韓国での資料調査、現地フィールド調査はこれからもハードルが高い状況が続くものとおもわれる。基本的には購入可能な刊行物、国内で閲覧可能な資料をもとに研究を進めることにしたい。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で国内外での調査活動が行えず、出張費を全く支出できなかったため。 国内外を問わず引き続き出張に制約がかかると予想されるため、可能な範囲で国内出張を行うとして、資料収集に関して購入、複写申請、取寄申請を積極的に活用し、その経費を支出することにする。 また収集した膨大な複写資料の散逸を防ぐとともに研究利用を円滑にするための整理・保管策を講じたい。
|
Research Products
(3 results)